オーストラリア南東部のパークス天文台にある電波望遠鏡。2019年7月15日の日没時に撮影。
Stefica Nicol Bikes/Reuters
- 天の川銀河の中心から来た謎の電波が、天文学者たちを悩ませている。
- 4つの天体が、これまでに知られているどんなタイプの恒星のものとも似ていない電波を一時的に発信したのだ。
- それらの4つの電波信号は、それぞれがまったく新しい、天文学的にまだ知られていないタイプの天体から来ている可能性がある。
シドニー大学の物理学博士過程に在籍する王梓騰(Ziteng Wang)は、天文学的な「干し草の山」のなかから、1本の針を見つけ出した。
王は2020年後半、オーストラリアにある電波望遠鏡「ASKAP(Australian Square Kilometre Array Pathfinder:アスカップ)」のデータを徹底的に調べていた。王の所属する研究チームは、この望遠鏡で200万個もの天体を検知し、その一つひとつを分類していた。
彼らのコンピューターは恒星のほとんどを識別し、それぞれの星が置かれている、生もしくは死の段階も特定した。たとえばパルサー(高速で回転する死んだ恒星)や、超新星爆発の存在を告げる信号が見つかった。だが、天の川銀河の中心に位置するある天体が、コンピューターと科学者たちを当惑させた。
天の川銀河の中心部から、謎の電波信号が発信される様子を描いたイメージ。
Sebastian Zentilomo/University of Sydney
その天体は、2020年を通じて強力な電波を発しており、9カ月間で6回の電波が検知された。その不規則なパターンと偏光度の強い電波は、研究チームがこれまでに見てきたどんな天体にも似ていなかった。
さらに奇妙なのは、X線や可視光線や赤外線ではその天体を見つけられなかったことだ。さらに、2つの電波望遠鏡で何カ月も探したにもかかわらず、電波信号も見つからなくなってしまった。
最初の検知からおよそ1年後、突然、その電波が再び現れた。だが、1日も経たないうちに、また消えてしまった。
「残念ながら、このような挙動をしているのが何なのかについて、我々はまったく理解できていない」
王の研究チームを指導するタラ・マーフィ(Tara Murphy)教授は、Insiderにそう語った。
この天体は、ごく普通の「死んだ恒星」ではなく、研究チームが調べてきた他の200万個の天体とは違うものだ。それが徐々に明らかになっていった。
「それが分かったときは、興奮がわきあがってきた」とマーフィは言う。
研究チームは、データを他の電波天文学者に送り、説明がつかないかと尋ねてみた。そのうちに、これに似たものは過去に誰も検知していないことが、少しずつ裏づけられていった。
研究チームの結論はこうだ。今回発見されたものは、天の川銀河の中心から来る謎の信号という、正体不明のカテゴリーに属している可能性がある。「銀河中心電波過渡現象(GCRT)」と呼ばれるものだ。王の発見以前は、それに類する天体は3つしか特定されていなかった。
GCRTは、当面の仮の名前だとマーフィは言う。
「我々がその正体を突き止めるまでは、ということだ」
天の川銀河の中心領域。ハッブル宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡、チャンドラX線観測衛星が2009年にとらえた画像をもとにしている。
NASA/JPL-Caltech/ESA/CXC/STScI
この電波信号がエイリアンの発しているものではないことについては、マーフィは「100%間違いない」という。何らかの技術によって生み出された信号なら、人類のラジオ放送の信号がそうであるように、もっと狭い範囲の周波数に収まると考えられるからだ。
GCRTは、何十年も前から宇宙の謎のひとつになっている。このような独特の電波信号を発するのは、どのようなタイプの恒星なのか、それは誰にもわからない。一つひとつのGCRTもそれぞれ異なっていることから、研究者のあいだでは、4つのGCRTの電波は、同じタイプの天体から出たものではない、と考えられている。
先行する3つのGCRTを発見した研究プロジェクトを率いたスコット・ハイマン(Scott Hyman)はInsiderに、新たな発見はどんなものであれ、「知識の総体を高めてくれる。すでにわかっていることを裏づけるか、補強するか、あるいは革命的な新しい理解につながる可能性もある」と語った。
「これらの天体がどんなカテゴリーに属しているのか、我々にはわからない。(GCRTのことは)まだ十分にわかっていないのだ」
10年の探索で見つかったGCRTは3つだけ
ニューメキシコ州サンアグスティン平原にある超大型電波干渉計(Very Large Array:VLA)
NRAO/AUI/NSF
低周波の電波を用いた望遠鏡による銀河系中心の観測が始まったのは、1990年代のことだ。だが、ハイマンの研究チームが2000年代始めにそうした電波望遠鏡で得られたデータを精査し始めたことで、銀河の中心から一時的に発せられる奇妙な電波が発見されたのだ。
ハイマンらが見つけた電波信号は、数カ月のあいだに強くなり、やがて消えた。他の電波信号とは異なり、X線では観測できなかった。
ハイマンの研究チームが発見したそれが、最初のGCRTだった。その後の3年でチームは別のGCRTを見つけ、電波バーストが77時間ごとに放出されたあとに消えたことから、「バーパー(burper、げっぷをする者の意)」という愛称をつけた。
この2つは、きわめて「明るい」信号だった。つまり、強い電波を放出したということだ。捜索を続ければ、もっと「暗い」、つまり電波の弱いものを含め、さらに多くのGCRTを見つけられるはずだとハイマンは考えた。
「氷山の一角だと思っていた」とハイマンは語る。ハイマンはすでに引退しているが、以前はアメリカ・バージニア州にあるスウィート・ブライヤー・カレッジの物理学教授および研究者として働いていた。
「最初のひとつがあれほど簡単に見つかったことからすれば、もっとたくさん見つかるだろうと期待していた。でも、あれは単に運がよかっただけなんだろう」
約10年間にわたる捜索で見つかったGCRTは、あとひとつだけだった。ちなみにそれは、保存されたデータのなかに隠れていたものだ。超大型電波干渉計(VLA)で改めて空のあちらこちらを調べたが、GCRTの信号が再び見つかることはなかった。
今回、王とマーフィはとうとう新たなGCRTを見つけたのかもしれない。しかしその発見も、そうした謎めいた天体の正体を明るく照らし出したわけではなかった。
満足のいく説を立てるためには、さらなるGCRTの発見が必要
回転しながらX線を放出するパルサーのイラスト。
NASA/JPL-Caltech
研究者らは、GCRTについていくつかの仮説を立てているが、「どれもあまり満足のいくものではない」とマーフィは言う。
GCRTはもしかしたら、2つか3つで組になって互いの軌道をまわる中性子星かパルサーなのかもしれない。ひとつの恒星から出る電波を、別の恒星が不規則な間隔で覆い隠しているわけだ。あるいは、エネルギーの尽きかけた瀕死のパルサーが、あえぐように不規則に電波を発信しているとも考えられる。
ハイマンはいまでも、まだ発見されていない他のGCRTが存在していると考えている。天の川銀河の中心に広がる厚い塵に包まれ、見えにくい状態になっているものもあるかもしれない。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のスピッツァー宇宙望遠鏡がとらえた赤外線画像。塵でかすんだ天の川銀河の中心に集まる数十万の恒星が見てとれる。
NASA/JPL-Caltech
世界各地にある最新の天文台は、2000年代のハイマンには不可能だった精度で銀河の中心を観測している。アメリカ海軍研究所が銀河中心の新たな観測データを公開するたびに、ハイマンはデータを精査してGCRTの徴候を探している。マーフィのチームは、ASKAPによる銀河中心の観測を続けると同時に、X線、可視光線、赤外線で、その謎めいた天体の存在を示す信号を探していく計画だ。
現在オーストラリアと南アフリカで建設が進められている「スクエア・キロメートル・アレイ」が完成すれば、先行するどの電波望遠鏡よりもはるかに優れた能力でGCRTを探せるはずだとハイマンは言う。完成は2028年の見込みだ。
「3つの天体を再び検知し、その正体を突き止められるだろうと、大いに期待している」とハイマンは話す。
「極めて暗い静止状態で潜んでいる可能性もある。いま現在はごく弱くなっているかもしれないが、それでも、超高感度の観測機器を使えば検知の望みはある」
(翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)
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2022-01-28 23:00:00Z
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