エドックスの2024年新作「クロノオフショア1 クロノグラフ ジャパン リミテッド エディション」を、モータージャーナリストの山田弘樹が着用レビューする。日本限定で販売される、この1000m防水というハイスペックダイバーズウォッチの実力とは?
筆者である山田弘樹が、ランボルギーニ レヴェルトの試乗会に連れ出した「クロノオフショア1 クロノグラフ ジャパン リミテッド エディション」。このリストショットは映える1枚だ。
山田弘樹:写真・文
Photographs & Text by Kouki Yamada
[2024年7月13日公開記事]
「クロノオフショア1 クロノグラフ ジャパン リミテッド エディション」を着用レビュー!
ブラック基調の大ぶりなボディに、チタンカラーのインデックスとグレーの針が、モノクロ写真のように映える骨太なダイバーズウォッチ。いや、ただの“ダイバーズ”ではない。そのケース9時位置には飽和潜水用のオートヘリウムエスケープバルブ、反対側にはクロノグラフ用のスタート&リセットボタンが付いた、“ハイスペックダイバーズ”が今回のパートナーだ。
この時計はスイスはジュラ州、レ・ジェネヴェに居を構える老舗ブランド、エドックスのフラッグシップコレクション「クロノオフショア1」だ。今年で創業140周年を迎える同社が、その節目として発売する日本限定モデル「クロノオフショア1 クロノグラフ ジャパン リミテッド エディション」を、一足お先にインプレッションした。
エドックス「クロノオフショア1 クロノグラフ ジャパン リミテッド エディション」Ref.10242-NGMCAS-NDGM
クォーツ(Cal.EDOX102)。Tiケース(直径45mm、厚さ15.5mm)。1000m防水。29万7000円(税込み)。2024年7月13日(土)販売開始。
エドックスが本作に落とし込んだ“世界観”を味わう
ということでまずは本作のスタンスを説明すると、クロノオフショア1には、「海のF1」ともいわれるパワーボートレースの世界観が投影されている。デザインはダイナミックさだけでなく、エレガントさも兼ね備えているところが大切なポイントだ。さらに、このジャパンエディションは漆黒のダイアルとボディで、本作の防水機能なら到達することのできる「深海1000mの世界観」をも表現している。
ブラックカラーを基調とした“オールブラック”スタイルを備えた本作。このケースは、チタンにブラックPVD加工を施したものだ。カレンダーディスクもブラックとなっているため、統一感のある仕上がりである。
直径45mmのボディは、堂々とした印象だ。また、ボディのトップを覆うダイビングベゼルはハイテクセラミックス製。厚さ3mmのサファイアクリスタルガラスとともに光を反射させてラグジュアリーな雰囲気を作りながらも、変形や腐食、傷に耐え得るタフさを併せ持っている。きらびやかさと屈強さ、背反する条件を併せ持つ姿は、まさにボートの世界のイメージ通りだ。惜しいのは逆回転防止機能付きベゼルのバネ感や振動が、一気に回すと軽めで、やや高級感に欠けること。しかしゆっくり回すと、その軽さと正確性は悪くない。
優れた出来栄えの外装
本作の重量は実測で136gと、ブラックPVD加工が施された見た目からは予想外に、とても軽い。それもそのはずでケースには、純チタンとも呼ばれる「グレード2チタン」が使われている。軽さだけでなく、耐腐食性にも優れるグレード2チタンなら、マリンユースにもふさわしい素材といえるだろう。
加工がしにくい純チタンながら、ケースの出来栄えも端正だ。
プロポーションは従来のクロノオフショア1に同じで、力強い印象だ。なお、クロノオフショア1には本作以外にも、ピンクゴールドPVDが施されたモデルやホワイトセラミックスのモデルなど、豊富なバリエーションが用意されている。
ラグ周りが直線的なプロポーションなのとは対照的に、ケース側面はふっくらとした丸みを帯びており、そのコントラストがかわいらしい。また、ケース側面にはうっすらとヘアライン加工が入り、ベゼルのキラキラ感とは対照的に、木目のような落ち着いた雰囲気を醸し出している。こうした緩急やコントラストの付け方が、非常にうまいデザインだと思う。
ダイアルに目を向ければ、前述の通り、漆黒の盤面にチタンカラーのインデックスと、グレーの時分針がシックなグラデーションを作り上げている。唯一アラビア数字のインデックスとなる「1」からは、クロノオフショア“1”の名前と、パワーボートレースにおけるチャンピオンナンバーがイメージできる。
ちなみに日本限定モデルには、“1”のインデックスに強さの象徴ともいわれるブラックダイヤモンドを5個埋め込んだ
個人的にはグリーンの蓄光塗料がブラックのボディに素晴らしくマッチしていると思うのだが、本作は暗所でおぼろげに光る程度で、明るい場所だと光を当ててもすぐに発色が失われてしまうのはちょっとさみしい。
ストラップやバックルの着け心地はいかに?
ゴツめのトップを手首に縛るストラップは、シリコン配合のラバータイプ。着け心地だけでいうともう少しシリコンを多くした方が良いようにも思えるが、このストラップは軽めとはいえ重心が高いボディの慣性を支えるサスペンションの役目にもなっているようで、総合的にはかなり腕馴染みがいい。見た目で言うと、立体的なスタッズパターンもユニークだ。機能性からは大きくずれてしまうが、本物のスタッズ仕様があってもラグジーでパンキッシュだと思った。
ストラップもブラックカラーで統一された。ラバーはヘッドの大きい時計でも、しっかりと手首に巻き付けることができるため、良い装着感を得やすい。
操作性で気になったのは、Dバックルの使い勝手だ。
まずベルトを噛み込むバックルそのものがふたつ折りのしっかりしたタイプになっているため、厚みが出てしまう。ラバーストラップだと閉じた最後にベルトを定革・遊革に押し込まねばならず、スムーズさに欠ける。
バックルもブラックPVD加工を施したチタン製。両サイドに取り付けられたプッシュボタンで開閉する。
ラバーストラップに3つも調整穴を用意して、フィッティングに幅を持たせているあたりは周到だが、そもそもタフに使えるラバーバンドに、Dバックルは必要なのか? とも思う。
とはいえ実装時の剛性は出ているし、フォールディング部分のペルラージュもしゃれている。個人的にはピンバックル仕様も欲しいが、こうした“無駄”を楽しめる余裕こそ、ボートの世界には必要なのだろう。
良い意味で“時計抜き”できる腕時計
いまさらながらに、この時計はクォーツだ。となると、一気にその熱が冷めてしまう読者もおられるかもしれないが、それこそ機械式原理主義な一面を持つ筆者にも、この時計にはクォーツがとても合うと思えた。ちなみにクロノオフショア1には、機械式のラインナップもある。
クォーツが良いと感じたのはまず、運針が1秒ごとにステップすること。スモールセコンドだとこれが、とても時間合わせしやすい。一度時間を合わせてしまえば、あとはフールプルーフだ。毎朝時刻を確認して、必要なら遅れ・進みを直して主ゼンマイを巻く“ひと手間”は、機械式時計好きの儀式であり日常。しかしこのクロノオフショア1には、そうした手間から一瞬自分を解放してくれる良さがあった。そして放っておいても平気なクォーツだからこそ、着けたいときにすぐ着けられる快適さある。
良い意味で“時計抜き”ができるのだ。ちなみにインプレッションした1週間での誤差は、最終的に+1秒だった。
1000m防水を備えているため、ケース厚は15.5mmと肉厚。とはいえクォーツムーブメントを搭載しているということもあり、ボリューミーすぎるというほどではない。なお、ケースバックにはパワーボートで最も重要なパーツのひとつであるプロペラが刻印されている。
クロノグラフの操作感は、いたって普通。この点でも、快適だ。
防水性の観点でねじ込み式リュウズを採用する分だけ計測時はひと手間必要だが、スタート/ストップボタン、リセットボタンともにバネレートには適度な張りがあり、プッシュしたときのメリハリも適度にある。なお、帰零時にクロノグラフ針は、ぐるっとダイアル上を回って元に戻る。
インデックス同様に3時位置の30分積算計、6時位置の12時間積算計も針はグレーで、とりわけ視認性が良いということもない。しかし、やや明るいグレーの目盛りは目に捉えやすく、トータルでクロノグラフとしての使い勝手は悪くないのだ。
ラフに使える贅沢なダイバーズウォッチ!
総じてエドックスのクロノオフショア1は、このフールプルールさを武器に、傷つくことを恐れずラフに使うのが最高に贅沢な1本だと思えた。そのためのハイテクセラミックスであり、1000m防水であり、タフ&スタイリッシュなオールブラックである。
そう考えると29万7000円のプライスは、かなりバランス感覚がいい。為替の関係もあって少し割高感はあるが、それでもなお上質な外装と、ラフに使える堅牢性と、手の届きやすいプライスのバランスが取れている。普段機械式時計をきちんと扱えるクロノス読者だからこそ、ラフといっても雑に扱うことはないだろう。一度手首に載せてもらえれば、その良さが分かってもらえるはずだ。
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2024-07-12 09:37:21Z
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