東京大学宇宙線研究所(ICRR)の播金優一助教を筆頭とする研究グループは、地球から約135億光年離れた宇宙に存在する明るい銀河の候補「HD1」を発見したとする研究成果を発表しました。
冒頭の画像はチリのパラナル天文台にある「VISTA望遠鏡」を使って撮影された「ろくぶんぎ座」の一角(疑似カラー)で、右側には左下の一部を拡大した画像が挿入されています。その中央に赤く見える天体が、播金さんたちによって発見された銀河候補HD1の姿です。
この宇宙は膨張し続けているため、天体を発した光の波長は長い距離を進むうちに伸びていきます。可視光線では波長が長い赤色のほうにずれていくことから、この現象は(宇宙論的な)赤方偏移と呼ばれています。
赤方偏移の量(zで示される)は光の進んだ距離が長ければ長いほど大きくなるので、地球からその天体までの距離を測るために用いることができます。発表によると、HD1の赤方偏移は13.3。これはHD1が地球から134.8億光年離れていることを意味するといいます。
これまで地球から最も遠い銀河として知られていたのは「おおぐま座」の方向にある「GN-z11」で、研究グループによればその赤方偏移は11.0、地球からの距離は133.8億光年とされていました。つまり、HD1はGN-z11よりもさらに1億光年遠い宇宙に存在する銀河の可能性があるのですが、銀河だと確定するにはさらなる観測が必要とされています。
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■ハッブル宇宙望遠鏡でも見えないほど遠くの銀河を求めて
GN-z11は「ハッブル」宇宙望遠鏡の観測によって発見されましたが、研究グループはさらに遠くに存在する銀河を求めて、ハッブル宇宙望遠鏡よりも長い波長をカバーできる望遠鏡の観測データを分析しました。前述のように、遠くの天体を発した光は地球に届くまでの間に波長が長く伸びてしまいます。ハッブル宇宙望遠鏡がカバーしている光(赤外線)の波長は1.7マイクロメートルまでですが、135億光年以上先にある天体からの光はこの波長よりも長くなり、ハッブルでは捉えられなくなってしまうからです。
研究グループは冒頭の画像を撮影したVISTA望遠鏡をはじめ、ハワイの「すばる望遠鏡」や「イギリス赤外線望遠鏡」、それにアメリカ航空宇宙局(NASA)が運用していた赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」による観測データを分析しました。合計1200時間以上の観測で得られた70万個以上もの天体のデータを数か月間かけて分析した結果見つかったのが、HD1だったのです。「70万個以上の天体からHD1を見つけるのはとても大変な作業でした」(播金さん)
HD1の赤い色は予想されていた135億光年先の銀河の特徴と驚くほどよく一致していたものの、研究グループは確証を得るために、チリの電波望遠鏡「アルマ望遠鏡(ALMA)」による分光観測を行いました。分光観測は天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る観測手法のことで、様々な原子や分子が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」や、反対に特定の波長の電磁波を放つことで生じる明るい線「輝線」を見ることができます。
すると、酸素に由来すると予想される弱いシグナルが見つかったといいます。このシグナルが本物であれば、HD1が約135億光年先の銀河であることの証拠になります。しかし、研究に参加した早稲田大学の井上昭雄教授によればシグナルの有意度は99.99パーセントであり、確証を持つには99.9999パーセントの有意度が求められるといいます。
そこで期待されているのが、新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」による観測です。ウェッブ宇宙望遠鏡は2022年夏から科学観測を始める予定ですが、HD1は第1期観測のターゲットに含まれているといいます。また、研究グループは134.4億光年先にあるとみられる別の銀河の候補「HD2」も発見しており、こちらもウェッブ宇宙望遠鏡による観測が予定されています。
播金さんは、HD1までの正確な距離が確認されることも含め、ウェッブ宇宙望遠鏡の活躍について「今から観測が非常に待ち遠しいです」と期待を述べています。
※記事中の距離は、天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。
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文/松村武宏
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2022-04-08 12:15:45Z
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