Selasa, 06 Juni 2023

底なしの謎の天体「ブラックホール」に天文学者興奮の新展開。専門家が語る研究の最前線 - Business Insider Japan

ブラックホールと降着円盤、ジェットの想像図

ブラックホールと降着円盤、ジェットの想像図

Sophia Dagnello, NRAO/AUI/NSF

強力な重力によって、周囲にあるものを吸い込んでしまう「ブラックホール」。2023年4月、英科学誌「nature」で最新の観測結果が発表され、天文学者が沸いています。

「新しいことが分かっても、また分からないことが出てくる。底なしの謎の天体の研究から、脱出できない状態です」

国内外から100人を超える天文学者が参加した国際共同研究を率いた国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘助教は、このように興奮気味に話します。

国立天文台の記者会見から、何が彼らをそこまで興奮させるのか、研究の最前線を探っていきましょう。

2019年に公開された、地球から5500万光年先にあるM87銀河のブラックホールシャドウの画像。この画像は、史上始めてブラックホールの存在を直接的に捉えたものとして、当時世界中で話題となった。あれから4年、研究はさらに進んでいる。

2019年に公開された、地球から5500万光年先にあるM87銀河のブラックホールシャドウの画像。この画像は、史上始めてブラックホールの存在を直接的に捉えたものとして、当時世界中で話題となった。あれから4年、研究はさらに進んでいる。

画像:EHT Collaboration

ブラックホール研究が加速

ブラックホールは、重たいわりにとても小さい、超高密度の天体です。重力が極めて強く、周りにある光や物質が一度飲み込まれてしまうと、二度と出ることはできません

ブラックホールの概念は18世紀に提唱され、20世紀に入ってから「現実に存在するかどうか」を巡る理論研究が本格的に進みました。理論研究の進展に大きな影響を与えたのは、物理学者のアルバート・アインシュタイン博士です。

それまで物理学の中心だったニュートンの理論に代わり、アインシュタインが提唱した一般相対性理論を用いて計算すると、天体がある半径よりも小さくなった段階で、「この世で最も速い光ですらも、その内側から脱出できなくなる」というおかしな計算結果が現れたのです。太陽と同じ質量の天体の場合、その半径はたった3キロメートルほどでした。

その後、宇宙からやってくる電波を観測する方法が発達し、1960年代以降、ブラックホールの存在が確実視されるようになりました。そして、2019年4月には、5500万光年かなたにある楕円銀河「M87」の中心部で、質量が太陽の65億倍もある巨大ブラックホールとその影の存在を証明したと国立天文台などが発表。「史上初、ブラックホールの撮影に成功」とのニュースが飛び交ったことを覚えている人も多いでしょう。

ブラックホールの「3点セット」が勢ぞろい

実は、2023年4月に発表された最新の成果の観測対象も、2019年の発表と同じM87銀河です。

ただ、前回は巨大ブラックホールの「ごく近くのみ」の撮影した結果だったのに対して、今回の研究成果では、巨大ブラックホール周辺のより広い範囲を調べています。

動画:Lu et al. 2023; animation by I. Marti-Vidal (Univ. Valencia)

論文の責任著者の1人である秦助教によると、ブラックホールは次の「3点セット」で構成されるといいます。

  • ブラックホール本体
  • ブラックホールに、その成長の源となるガスを供給する「降着円盤」
  • ブラックホールの近傍から高速で吹き出しているガスの流れ「ジェット」

「この3点セットは、ブラックホールのことを知るために欠かせない『三種の神器』なのですが、これまでは銀河中心部のブラックホールと、そこから遠く離れた場所にあるジェットをそれぞれ別々に撮影するのにとどまっていました。今回は、これまで直接撮影ができていなかった降着円盤の姿を初めて捉え、ジェットと併せて1枚の写真の中におさめることができたのです」(秦助教)

研究結果について説明する秦助教。

研究結果について説明する秦助教。

画像: 2023年4月27日、国立天文台の記者会見からスクリーンショットで撮影。

2019年のリングとは「別のリング」を観測

秦助教ら国際共同研究チームが捉えた画像は、次のようなものでした。

中心部に明るく光るリング状の構造があり、右側には、そこにつながる3本のガス(ジェット)の様子もうっすらと捉えられています。では、この観測結果から、いったい何が分かったのでしょうか。

M87中心部の電波画像(波長3.5ミリメートルで測定)。

M87中心部の電波画像(波長3.5ミリメートルで測定)。

画像: Lu et al. (2023); composition by F. Tazaki

まず研究チームは、今回観測したリング状の構造が何なのかを検討しました。

リングと言えば、2019年に撮影されたブラックホールの画像でも、リング状の構造が捉えられていました。

ただ、今回撮影されたリングの見かけの直径は0.017光年(1光年は光が1年かけて移動する距離)に相当し、2019年に観測したリング状の構造と比べると1.5倍ほど大きく、厚みもぽってりとしています。

M87中心部の電波画像、左が今回の観測結果(波長3.5ミリメートルで測定)。右が2019年の観測結果(波長1.3ミリメートルで測定)。

M87中心部の電波画像、左が今回の観測結果(波長3.5ミリメートルで測定)。右が2019年の観測結果(波長1.3ミリメートルで測定)。

画像:Lu et al. (2023); EHT Collaboration; composition by F. Tazaki

今回見えた「大きくて厚い」リングについて、研究チームはコンピュータシミュレーションを用いてさまざまなシナリオを検討しました。その結果、2019年に観測したものと比べて大きくて厚いことは間違いなく、巨大ブラックホールの周りに広がる「降着円盤」であると考えるのが妥当だという結論に達したといいます。

秦助教とともに記者会見に同席した八戸工業高等専門学校の中村雅徳教授は

「今回、降着円盤という活動銀河核の最後のベールが、直接撮影で明らかにされました。ブラックホール天文学において、極めて重要な進展です」

と意義を強調しました。

ブラックホールから「ジェット」が吹き出すイメージ。中心にある黒い球の周辺に描かれている円盤状の構造が「降着円盤」のイメージ。

ブラックホールから「ジェット」が吹き出すイメージ。中心にある黒い球の周辺に描かれている円盤状の構造が「降着円盤」のイメージ。

画像:NASA/JPL-Caltech

「光の矢」ジェットにも新たな発見

ブラックホール「3点セット」の一つ、高速で吹き出すジェットについても、新しい発見がありました。M87のジェットは1918年に「不思議な光の矢」として発見され、古くから知られた存在でした。

ただ、何もかも吸い込んでしまうはずのブラックホールの重力をどのように振り切っているのか。どうやって光速近くまで加速され、「光の矢」のような形状になるのかなど、ジェットには謎がつきまとっています。その解明は天文学の大きな課題になっていました。

M87中心部の電波画像とジェット理論モデルの合成図

M87中心部の電波画像とジェット理論モデルの合成図。

画像:Lu et al. 2023; composition by F. Tazaki and M. Nakamura

今回の観測画像では、ジェットの流れが、ジェットを形成する縁の部分(上記画像の青点線)と、真ん中を貫く部分(上記画像の「ジェットの方向」の矢印付近)に、少なくとも3本あることが確認されました。秦助教は

「これは、研究者がとても注目している構造です。特に、真ん中の構造の正体が何なのか正確なところは分かっていませんが、もしかしたら巨大ブラックホールから直接、吹き出しているジェットなのかもしれず、今後詳しく調べていきたいです」

と話します。

降着円盤の付近に確認された、「ふくらんだ構造」もジェットの謎を解く鍵になりそうです。

ジェットは細長い線状に放出されるものですが、そのためにはガスを細長く絞る仕組みが必要です。理論的には、その仕組みには降着円盤と、そこから吹き出す円盤風の存在が不可欠であると考えられてきました。 今回見つかった「ふくらんだ構造」は、ジェットの「覆い」の役目を果たす 円盤風である可能性があるというのです。

中村教授は

「想定していなかったものが、副産物として見えて驚きました。なぜジェットが細く絞られた形状になっているのかを解き明かすヒントになるかもしれず、非常に喜ばしいです」

と語ります。

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2023-06-06 07:20:00Z
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