宇宙から地球を見据えるブキミな瞳…。
ことの発端は2004年。天文学者たちが宇宙のかなたから届く紫外線を観測していたところ、巨大な「眼」のような現象を発見したそうです。「ブルーリング星雲(Blue Ring Nebula)」と名付けられたこの天体は、これまでにない特異なものでした。ただちに研究者たちの興味を惹きつけ、多様に推論されたのですが、結局その正体や成り立ちは確信が持たれぬまま16年の時が過ぎました。
そして2020年になって、ようやっとブルーリング星雲の謎が解明されたそうです。
学術誌『Nature』に発表された最新の研究によれば、ブルーリング星雲はふたつの恒星が合体したもの。詳しくいえば、大きな恒星がもっと小さな恒星を引き寄せ、やがて吸収した跡なのだそうです。中心の金色に光る点が融合したあとの星で、そのまわりを取り囲む青い霞は飛び散った星のかけら。そして眼を縁取っているピンク色のアウトラインはいまなお広がりつつある衝撃波だそうです。
これらはすべて紫外線で観測されており、裸眼では見えないそうなので、実際宇宙を見上げてブキミな眼と見つめ合っちゃったりすることはないそうです、念のため。
絶妙なタイミング
でも、広い宇宙において恒星同士がぶつかることなんてしょっちゅう。だったらブルーリング星雲も別に珍しくないよね?と思いきや、観測されたタイミングこそが非常にレアだったのだとか。
というのも、多くの場合、恒星同士の衝突が観測されるのはぶつかった直後なのだそうです。しかしこの場合、カリフォルニア工科大学の物理学者・Keri Hoadley氏によれば、「おびただしい量の噴出物が視界をさえぎってしまうので、衝突直後は中心部で星がどのようになっているのかを観測できません」。
ブルーリング星雲は恒星が衝突してからおよそ5,000年経っていると考えられ(地球に光が到達するまでの時間を除く)、ちょうど霞が晴れあがったところを目撃できたそうです。逆にもし遅すぎていたら、Hoadley氏いわく「ブルーリング星雲は恒星間空間に吸収されてあとかたもなく消え、なにが起きたかはわからなかったでしょう」とのこと。
Hoadley氏はこのチャンスを活かして、みごと16年間謎のままだったブルーリング星雲の成り立ちを解き明かし、筆頭著者としてNature誌に研究論文を発表しました。
発見、そして困惑
まずは話を2004年に戻しましょう。当時NASAのGALEXミッションのもと紫外線の波長帯で宇宙を観測していたカーネギー研究所所属の宇宙物理学者・Mark Seibert博士(論文共著者)は、ブルーリング星雲を最初に目にした人類のうちのひとりでした。発見当初、同僚でカリフォルニア工科大の物理学者であるChris Martin氏(同じく論文共著者)も「非常に興味深い天体だ」と感じ、「年内にはこの発見について研究をまとめて論文を発表できるだろう」と考えたそうです。
ところが、年内にまとめられるはずの論文は二進も三進も行かず。どれだけデータを集めても、謎解きが進まなかったのです。
わかったのは、衝撃波の存在がなにか大きな衝突を意味していること。さらに、中心の「TYC 2597-735-1」と名付けられた恒星がすでに水素を核融合によって使い果たしており、かなり年老いていることでした。
このほか諸々の特徴から察するに、ホットジュピターのような惑星が恒星に向かってデススパイラルを描きながら落下し、破壊されたのではないか?との仮説が立てられましたが、「それにしては曖昧な点が残った」とMartin氏。そもそも中心にある天体が恒星なのかどうかもあやしげで、「シャーロック・ホームズ級のミステリーのようでした」とMartin氏は回想しています。「観測によって得られた手がかりすべてをうまく説明できるシナリオを誰も思いつけなかったんです。ですから、数年続いた研究もやがては打ち切られ、しばらく休止状態に入りました」。
転機、そして解明
そして2017年。Martin氏の研究室に新たにポスドク研究員として入ってきたのがHoadley氏でした。
「研究室に入って二日目に巨大な眼の話を聞いて、すぐさま虜になりました」とHoadleyさんは当時のことをプレス会議で語っています。そして、彼女はそのまま研究を引き継ぎました。
研究を進めていく上で新たなデータも取得できたものの、最大の難所は今まで得られたパズルのピースをどううまく組み合わせるか。すると、次第に展望が開けていったといいます。まず、これは惑星ではなく恒星同士の衝突だったということが噴出物の質量の大きさから導き出されました。このことはマクドナルド天文台に設置されているホビー・エバリー望遠鏡が集めた惑星検索データベースからも裏付けられ、この恒星系内に惑星が存在していないことを確認できたそうです。
さらに、NASAが運営するスピッツァー宇宙望遠鏡と広域赤外線探査衛星(WISE)などの情報により、恒星TYC 2597-735-1のまわりには降着円盤があることも判明。ふつう、降着円盤は若い活発な星のまわりにしか見られないのに、TYC 2597-735-1みたいな年老いた恒星になぜ?
謎が深まる中、 Hoadleyさんたちは研究チームにコロンビア大学の宇宙天文学者で星同士の融合に詳しいBrian Metzger博士(論文共著者)を迎え入れました。すると、Metzger氏の数学モデルとコンピューターモデルを使った結果、これまでブルーリング星雲について蓄積されてきた数々の観測データがみごと一致したそうです。
「Brianのモデルは私たちが観測したデータを説明するだけにとどまらず、説明する前からすでに観測結果を予測できるほど精密だったんです」とHoadleyさんはプレスリリースで語っています。「これが恒星同士の衝突ならば、こういうデータを観測したはずだってBrianが言うと、ドンピシャでその通りだったんですよ!」
ブルーリング星雲物語
それでは、16年越しに解明されたブルーリング星雲の成り立ちをあらためてご紹介します。
何千年も前のこと、ほぼ太陽と同じ質量を持った恒星のまわりを、その10分の1ほどの小さな恒星が公転していました。大きな恒星は年老いていくにつれてふくらみ、巨星になりました。
巨星は小さいほうの恒星ギリギリのところまで膨張したため、その重力で小さな恒星を引き込みはじめました。そして小さな恒星は巨星に向かって落ちながら降着円盤を形成し、やがてふたつは融合したのです。その衝突のインパクトで星屑が雲のように広がり、降着円盤によって真っ二つに分断されました。
その結果、ふたつの円錐形をした星雲に発達しました。
ふたつの円は衝撃波で、真逆の方向に秒速400キロメートルで恒星間空間を進んでいます。地球の方角からはこの円が重なるため、瞳をふちどる線のように見えるんですね。
衝突から何千年も経ち、方々にばらまかれた星屑は次第に冷えて水素分子を形成しました。この水素分子が恒星間物質と衝突して紫外線を放射し、その紫外線がいま地球に届いているためにキラキラと光って見えるのだそうです。
Hoadley氏によれば、ブルーリング星雲は今後も数千年から数万年の間紫外線を放射し続けたあと、恒星間空間に完全に溶けて消えてしまうのだそうです。地球人からしてみたら充分に長い期間ですが、宇宙的な時間からしてみたらほんのまばたきにも満たぬ間。その宇宙のまばたきを捕らえた今回の功績は、恒星同士の融合について新たな見地をもたらしているそうです。
Reference: Nature
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2020-11-27 12:00:00Z
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