可視光で見た太陽はたいてい無表情で、何の特徴もないように見えます。しかし、太陽望遠鏡を用いて異なる波長で見ると、太陽は活動的でさまざまな特徴に富んだ姿を見せてくれます。その一つが「コロナループ」と呼ばれる巨大なアーク状の放射現象です。
コロナループは、太陽の基本的な機能と考えられています。コロナループがどのように形成され、変化し、移動するのかを理解することは、私たちに最も近い恒星である太陽を理解するための重要な目標の一つです。
最近、そのコロナループについて、太陽物理学者のAnna Malanushenko氏とその共同研究者たちによる、おもしろい研究結果が発表されました。コロナループのいくつかは見た目とは違うかもしれないと言うのです。
むしろ、コロナループは、著者たちが「コロナベール」と呼ぶ、より大きな太陽物質の「シート」の中の折り目やしわによって作られた目の錯覚である可能性があるとのこと。
1960年代後半に初めてコロナループが捉えられて以来、科学者たちはその立体構造がどうなっているのか、仮説を立ててきました。従来のモデルでは、太陽の磁力線によって形成された磁気の「チューブ」であると考えられていました。
チューブ自体は目に見えません。私たちが目にするのは、まるで庭のホースを流れる水のように、チューブの中を流れる明るい太陽を構成する物質(プラズマ)です。この「ガーデンホース」モデルは、既知の物理学とうまく適合しており、少なくとも最初のうちは疑う理由はなかったのです。しかし、やがて適合しない観測結果が積み重なっていきました。
地球の空気が高度とともに薄くなるように、太陽の明るいプラズマは、高度が高くなるほど薄くなります。もし、コロナループがプラズマのチューブであるなら、高さが増すにつれて暗くなるはずです。しかし、多くのループは一定の明るさを保っており、これには明確な説明がありません。
また、コロナループが太陽の磁力線の跡をなぞって(トレースして)いるとすれば、太陽から離れるにつれて磁力線が空間いっぱいに広がり、ループが膨らむはずです。しかし、考えられているほどには膨らまず、その理由も不明確だと言います。
観測に疑問を持ち始めたMalanushenko氏は、太陽コロナは「光学的に薄い」、つまり霧や煙のように半透明であり、そのような環境で起こりうる光学的なトリックを理解したいと思いました。
Malanushenko氏は、もともと太陽フレアの研究に使われていた3次元シミュレーションを再利用し、それを「観測」するためのプログラムを作成しました。望遠鏡で実際の太陽を2次元で撮影するのと同じように、シミュレーションを起動し、プログラムが2次元の「画像」を撮影したのです。その結果、シミュレートされた太陽に人工的なコロナループが形成され、明るいループを描いていることが確認されました。
さらに、本物の太陽を見るのとは異なり、その背後にある3次元構造を見ることができました。そして彼女は、庭のホースのようなチューブとは明らかに異なるものを発見したのです。
「これは地球上で見るものとはちがうので、どう表現したらいいか言葉がありません」と、彼女は言っています。「この構造は、煙の雲か、あるいはベールか、しわくちゃのカーテンのように見えると言いたいのです」
Malanushenko氏は、ベールがどのようにコロナループの錯覚を引き起こすかを説明するために、簡単なモデルを作成しました。壁に映る影は、私たちが太陽望遠鏡で見ている2次元の画像を表しています。ベールの折り目やしわは、暗い部分と明るい部分のパターンを作り出し、実際のチューブ状の撚り糸が投影するイメージに似ています。
「しかし、ここに見える多くの撚り糸は、単なる投影効果に過ぎず、本物ではありません」と、彼女は付け加えています。
Malanushenko氏とその共同研究者たちは、すべてのコロナループが視覚的な錯覚であるわけではないことを、明らかにしています。シミュレーションでも、実際にガーデンホースのような構造が形成されている例も多くあったと言うことです。
NASAの太陽物理学者で、この論文の共著者であるJim Klimchuk氏は、「われわれの考えはすべて間違っていた、まったく新しいパラダイムが存在する、と言えたら、それはエキサイティングなことでしょう」と、語っています。「しかし、このようなベールが存在することは確かで、今は、ベールが多いのか、ループが多いのか、比率の問題なのです」
コロナベールは文字どおり発見されただけであって、その形成についての説明は今後の研究に委ねられているのが現状のようです。
Source
文/吉田哲郎
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2022-07-08 12:17:13Z
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