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このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)などに所属する研究者らが発表した論文「Walking naturally after spinal cord injury using a brain-spine interface」は、脳と脊髄を直接つなぐBrain-Spine Interface(BSI)を提案した研究報告である。脳と脊髄の2カ所に埋め込んだ電子機器により、脳活動から取得した電気信号を脊髄に伝送して刺激を与えることで筋肉を活性化させる。
12年前に事故で首の骨を折って脊髄を損傷し、下半身不随となった40歳のゲルト・ヤン・オスカムさんは、今回のシステムに挑戦し、補助器具を使って歩けるまでになった。
システムは、脳と脊髄の2カ所に埋め込んだ電子機器でワイヤレスかつリアルタイムに通信することで、思考から脊髄神経へ実行コマンドを送信する。
脳に埋め込む電子機器は、8×8のグリッド状に配置された64個の電極と電子回路で構成しており、頭蓋骨内に埋め込み、感覚運動皮質からの電気刺激信号(ECoG)をモニターするために使用する。
脊髄に埋め込む電子機器は、16個の電極アレイに接続した神経刺激装置であり、脊髄神経のうち仙髄(腰辺りに位置する神経)に配置する。
埋め込んだ脳の電子機器は、頭部に装着した受信機と無線通信を行う。その信号は受信機からバックパック内のコンピュータに送られる。そして、このコンピュータが脊髄に埋め込んだ刺激装置に信号を送る。
学習モデルによって、収集したECoG信号から動きの意図をリアルタイムに解読し、脊髄への電気刺激のシーケンスに変換して送られる。これにより、脚の筋肉を活性化し、望ましい動きを実現できる。
今回テストに参加したゲルト・ヤン・オスカムさんは、リハビリテーションにより、事故以来失っていた神経機能を回復できた。補助器具を使いつつ座った状態から立ち上がり、手すりをつかみ階段で2階に上がり、外の不整地も歩き回ることが可能になった。
さらに、装置の電源を切った状態でも感覚や運動能力の著しい向上が見られ、松葉つえで歩くことができた。研究者らは、繰り返し運動することで背骨の神経細胞の再生が促されたためではないかと考えている。
Source and Image Credits: Lorach, H., Galvez, A., Spagnolo, V. et al. Walking naturally after spinal cord injury using a brain-spine interface. Nature(2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06094-5
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2023-06-01 23:00:00Z
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