2022年8月19日
理化学研究所
-原始巨大ガス惑星形成の兆候-
理化学研究所(理研)開拓研究本部坂井星・惑星形成研究室の大橋聡史研究員、坂井南美主任研究員らの国際共同研究グループは、成長途中の若い星(原始星)を取り巻く「原始星円盤[1]」を観測し、巨大ガス惑星形成の兆候とその影響による冷たい陰の領域を発見しました。
本研究成果は、多種多様な環境を持つ系外惑星の起源解明に貢献すると期待できます。
今回、国際共同研究グループはアルマ望遠鏡[2]とVLA[3]を用いて、おうし座にある原始星IRAS04368+2557を取り巻く原始星円盤を観測しました。詳細な解析の結果、ガスや塵からできている原始星円盤が、重すぎて自己重力によって分裂し、巨大ガス惑星の元となる塊(原始巨大ガス惑星)を形成していることが分かりました。その塊を境に外側では温度が急激に下がっていくことから、原始星円盤の外側では原始星からの光が遮られ、低温の日陰が作られていると考えられます。このことは、日陰の冷たい環境で次の惑星形成が進むことを示唆しており、将来作られる惑星の性質に違いが生じる可能性があります。
本研究は、科学雑誌『Astronomical Journal』オンライン版(8月3日付)に掲載されました。
背景
星と惑星系は、銀河の中に漂うガス(主に水素分子)や塵からなる分子雲が自らの重力で収縮することにより誕生します。生まれたばかりの星(原始星)の周りにはたくさんのガスや塵が存在し、原始星に向かって落下していきますが、原始星方向に真っ直ぐに落下するわけではなく、らせん状に落ちていきます。分子雲には「ゆらぎ」があり、ガスや塵が原始星方向とは異なる向きの初速度を持つためです。
ガスや塵が原始星に近づくと、角運動量保存則[4]により回転方向の速度が増加し、原始星周りに円盤構造が作られます。この円盤は「原始星円盤」と呼ばれ、周囲のガスや塵の落下がおおむね終了して円盤の大きさが遠心力と重力が釣り合った半径に落ち着くと「原始惑星系円盤」と呼ばれるようになります。降ってきたガスの角運動量の向きや大きさが原始惑星系円盤の形状に大きく影響するため、原始惑星系円盤の形成過程の理解は惑星形成の理解と密接な関係にあります。
近年の観測では、作られたばかりの若い原始星円盤で既に、環状(リング)構造やらせん状構造があることが次々と明らかになっています。このような円盤の中での「構造形成」は惑星形成の始まり、あるいは惑星が既に誕生している可能性を示しており、これまで考えられてきたよりもずっと早い段階における惑星形成の開始を考える必要が生じていました。
本研究では、この構造形成の過程や、構造が惑星の性質に与える影響を調べるため、原始星IRAS04368+2557周りの若い原始星円盤に着目し、チリのアタカマ砂漠に建設された「アルマ望遠鏡」と米国の「VLA」を用いて、高空間分解能の電波観測を行いました。
研究手法と成果
原始星IRAS04368+2557はおうし座の方向、地球から450光年離れた場所にある生まれたばかりの太陽型原始星です。この原始星を中心としてその周りに、半径80~100天文単位(au)[5]程度の原始星円盤(以下、円盤)が形成されており、半径15auの位置にはガスや塵からなる塊のような構造がある可能性が指摘されていました。国際共同研究グループは、この円盤をアルマ望遠鏡とVLAを用いて波長0.9mmから7mmまでの幅広い波長帯で電波観測を行いました(図1)。この円盤は地球から見て真横を向いているため、原始星からの距離に応じた円盤の厚みの変化や、塵が放射する電波強度の変化を調べることができます。
図1 アルマ望遠鏡とVLAを用いた原始星IRAS04368+2557周りの原始星円盤の観測画像
波長0.9mmから7mmまでの幅広い波長帯の電波を観測することで、原始星円盤の温度や塵の大きさを見積もることができる。アルマ望遠鏡の画像では、VLAで観測されたクランプ(ガスや塵からなる塊)構造を+で示し、原始星に近いほど高温であることが分かる。原始星とほかに二つのクランプ構造が見られる。Δxは円盤の幅、Δyは厚みを表す。左下の白い楕円は、望遠鏡の分解能を示すビームサイズを示す。
高感度・高分解能観測の結果、中心の原始星から遠ざかるにつれて温度が徐々に下がっていく様子に加え、実際に原始星から15auの距離に塊構造が存在し、それを境に温度が急激に下がっていることが分かりました(図2、3)。これは、塊構造によって原始星からの光が遮られ円盤の外側では日陰の冷たい領域が存在することを示しています。
図2 原始星円盤の温度分布
原始星IRAS04368+2557周りの円盤の(観測者から見て)北側と南側の温度分布を示す。灰色の破線で示す円盤半径15auより外側で、温度が急激に減少していることが分かる。
さらに円盤の重さを見積もったところ、自身の重力を回転運動で支えることができないほど重いことが分かりました。そのため、二つの塊のような構造は自己重力による円盤分裂で形成され、原始巨大ガス惑星である可能性が高いと考えられます(図3)。
また、波長7mmに対する3mmの電波の相対強度と半径の関係を調べたところ、半径50auよりも外側では7mmの電波強度が相対的に弱くなっていることが分かりました。二つの波長帯間の相対強度は塵の大きさに依存することから、7mmの電波強度が相対的に弱いことは、塵のサイズがまだ十分小さいことを意味します。すなわち、半径50auよりも外側の領域では、塵はまだ大きくなっていないことが明らかになりました(図3)。
図3 原始星IRAS04368+2557周りの原始星円盤の想像図
円盤自体の重力によって、半径15auの位置で二つの原始巨大ガス惑星の形成が起こり、それよりも外側は光が遮られて冷たい日陰が作られている。原始巨大ガス惑星と思われる塊の軌道上には、まだたくさんのガスや塵が分布していて、リング構造のようになっていると考えられる。半径50auよりも外側では、塵はまだ大きくなっていない。
今後の期待
本研究では、成長途中の若い原始星円盤内に見つかっていた塊構造が円盤自身の重力による不安定性で作られたこと、またその陰によって外側の円盤の温度が下がっていることを発見しました。原始星が放つ光や周囲からのガスや塵の降着によって、これまで原始星円盤は暖かい状態にあると考えられてきました。
しかし今回、形成しつつある原始巨大ガス惑星によって冷たい陰領域が作られることが分かりました。陰領域では塵がまだ大きく成長しておらず、今後惑星形成が始まるものと考えられます。すなわち、日向で巨大惑星が作られ始めると、その外側では日陰の冷たい環境下で惑星形成が始まる可能性があるということです。これは、将来作られる惑星の性質に違いを生じる可能性も示しています。
近年、太陽系のみならず太陽系外惑星の探査でも、さまざまな大気組成を持つ惑星が見つかっています。本成果は、これらの多種多様な環境を持つ系外惑星の起源解明に向けて大きな意義を持ちます。
補足説明
- 1.原始星円盤
分子ガスと塵からなる分子雲が自己重力により収縮することで星は誕生するが、その際、大きな角運動量を持ったガスや塵が直接中心の原始星には到達できず、原始星の周りに円盤が形成される。これを原始星円盤と呼ぶ。進化が進み、原始星への降着が弱くなった状態を原始惑星系円盤と呼び、惑星系の元になる。 - 2.アルマ望遠鏡
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA、アルマ望遠鏡)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設。直径12mのアンテナ54台、7mアンテナ12台、計66台のアンテナ群をチリ共和国のアンデス山中にある標高5,000mの高原に設置し、一つの超高性能な電波望遠鏡として運用している。2011年から部分運用が開始され、2013年から本格運用が始まった。感度と空間分解能でこれまでの電波望遠鏡を10倍から1,000倍上回る性能を持つ。 - 3.VLA
カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(Karl G. Jansky Very Large Array, 略称VLA)は、アメリカ国立電波天文台が運用する電波望遠鏡である。直径12mのアンテナ27台を米国ニューメキシコ州に設置し、一つの超高性能な電波望遠鏡として運用している。 - 4.角運動量保存則
角運動量は回転運動の向きと勢いを表す量であり、粒子の運動量と基準点(原点)からの距離の積で表される。星からの重力(中心力)以外の力を受けない限り、角運動量は保存される(角運動量保存則)。そのため、距離が小さくなると運動量が増え、粒子はより速く回転することになる。 - 5.天文単位(au)
天文学で用いられる距離の単位。1天文単位は地球と太陽の距離に由来し、約1億5000万km。auはastronomical unitの略。
国際共同研究グループ
理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室
研究員 大橋 聡史(オオハシ・サトシ)
基礎科学特別研究員(研究当時) 仲谷 崚平(ナカタニ・リョウヘイ)
基礎科学特別研究員(研究当時) チャン・イーチェン(Zhang Yichen)
(現 客員研究員、バージニア大学 Department of Astronomy 研究員)
主任研究員 坂井 南美(サカイ・ナミ)
台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)
助教 ハウユー・リウ(Hau-Yu Liu)
名古屋大学 大学院理学研究科 理論宇宙物理学研究室
助教 小林 浩(コバヤシ・ヒロシ)
千葉大学 大学院理学研究院 宇宙物理学研究室
特任教授 花輪 知幸(ハナワ・トモユキ)
研究支援
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助成事業若手研究「ALMA偏光観測と輻射輸送計算で探る原始惑星系円盤のリング形成とダスト成長(研究代表者:大橋聡史)」および、同基盤研究(A)「円盤形成ごく初期における円盤構造形成の探求(研究代表者:坂井南美)」による助成を受けて行われました。
原論文情報
- Ohashi Satoshi, Nakatani Riouhei, Liu Hauyu Baobab, Kobayashi Hiroshi, Zhang Yichen, Hanawa Tomoyuki, Sakai Nami, "Formation of Dust Clumps with Sub-Jupiter Mass and Cold Shadowed Region in Gravitationally Unstable Disk around Class 0/I Protostar in L1527 IRS", The Astrophysical Journal, 10.3847/1538-4357/ac794e
発表者
理化学研究所
開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室
研究員 大橋 聡史(オオハシ・サトシ)
主任研究員 坂井 南美(サカイ・ナミ)
報道担当
理化学研究所 広報室 報道担当
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2022-08-19 05:02:35Z
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