カニエ・ウェストの新作は、まさかのデジタルガジェット。
ラッパー/プロデューサーとしての活躍はもちろん、アディダスやGAPとのコラボレーションも行なうファッションブランド、YEEZYを手がけるなど、現代のカルチャーヒーローとも言えるカニエ・ウェスト。
先日Netflixで公開されたドキュメンタリー『jeen-yuhs カニエ・ウェスト3部作』の中で、カニエはミュージシャンの枠を超えてアップルやフォードのような存在になりたいと話していましたが、この音楽プレイヤー「STEM PLAYER」は、そんなヴィジョンの中のひとつのプロダクトかもしれません。
STEM PLAYER
これは何?:ラッパー、カニエ・ウェストが作った音楽プレイヤー。
価格:200ドル(STEMPLAYER.COMから直販)
好きなところ:ガジェットらしからぬソフトな感触と、かわいらしいフォルム。
好きじゃないところ:専用アプリがなく、全体的に不自由。
音楽の再生とリミックスが行えるプレイヤー
このSTEM PLAYER最大の特徴は、STEM PLAYER独占配信となったカニエ・ウェストによる2022年最新アルバム『ドンダ2』が聴けること。
そう、Apple MusicやSpotifyで配信されないだけでなく、データはもちろんCDやレコードも販売されないため、『ドンダ2』が聴きたければこのプレイヤーを購入しなければいけないのです。
と、ハードウェアとは無関係な点で注目を集めているSTEM PLAYERですが、そもそも発売は去年。当初は前作『ドンダ』を“もっと楽しむ”ためのガジェットと捉えられていました。
というのも、STEM PLAYER自体の最大の特徴は、音楽データのインポートと再生だけでなく、“リミックス”に対応していることなんです。
レコードやCD、MP3など一般的な音楽メディアやデータは、LとRの左右2chで構成されています。LもRも、楽曲中で使われている楽器の音がミックスされた後の状態なので、例えばビートルズの「レット・イット・ビー」を再生しながら「ポール・マッカートニーが弾くピアノだけを聴きたい」と思っても、それは不可能です。
それに対して、このSTEM PLAYERは「ステムデータ」と呼ばれる、楽器ごとに分離したデータが再生可能。そのためカニエ・ウェストのラップや歌声だけを聴いたり、ドラムの音量を完成品より小さくしたりといったリミックスができるようになっているんです。
本体前面に4本あるLEDインジケーターは、それぞれ「ヴォーカル/インストゥルメンタル/ベース/ドラムス」の4パートに対応。インジケーターであると同時に感圧式のフェーダーになっているので、操作したいパートを指でなぞったり、押したりすることで次の操作が可能です。
・音量調整
・ミュート
・ソロ再生
またエフェクトモードを搭載しており、再生ピッチの変更、最大1小節のループ再生に対応。自分で操作したリミックスをプレイヤー内に録音することもできます。
楽曲のインポートや削除はブラウザ経由
誤解されがちですが、このSTEM PLAYERで再生できるのはカニエ・ウェストの作品だけではありません。
自分の手持ち楽曲のインポートも可能です。
本体をUSB Type-CケーブルでMacやWindowsと接続し、Webブラウザ(ChromeかEdge)でSTEMPLAYER.COMにアクセスすれば音楽データをインポートや削除が行えるようになります(カニエ・ウェストの作品もこのサイトからしかインポートできません。不便…)。
手持ちの音楽データをアップロードすると、このように「SPLITTING…」と表示され処理が始まります。
しばらくすると、通常のMP3が「ヴォーカル/インストゥルメンタル/ベース/ドラムス」の4パートに分割されたステムデータに変換され、STEM PLAYERへ転送が始まります。
サーバー側で楽曲を解析・抽出し、各パートに分割しているようです。共同開発者であるイギリスのベンチャー企業「Kano」のAlex Klein氏は〈COMPLEX〉のインタビューで、このチャンネル分離ソフトウェアにかなりの労力を注いだと語っています。
実際に各パートを聴いてみると、しっかりとヴォーカルやドラムだけが抜き出されており、非常に高精度。慣れ親しんだ楽曲がどのように作られているのかがわかる、興味深い体験です。
シンプルに触って楽しい。でもなぜ今さら音楽プレイヤー?
以上のように、STEM PLAYERは「カニエ作品しか聴けないのに200ドルもする高価なプレイヤー」と思われがちですが、決してそんなことはありません。
万能ではありませんが、むしろ全体的によくできた興味深いプレイヤーだと思います。
内蔵スピーカーのほか、ヘッドンジャック、Bluetoothを搭載しているので、あらゆる視聴環境に対応。
良い意味でガジェットっぽくないシリコン製カバーの柔らかくもサラリとした感触、絶妙なボディーの軽さ、フェーダーを端までスライドしたときなどに感じられる振動フィードバック。これらの操作感が相まって、ついつい長い時間触ってしまう魅力があります。
これはカニエによる「自閉症の人たちのために作られた製品を研究しよう」という提案と子どもたちを対象としたテストによって導き出された、手触りと対称性を重視した設計によるもの。
というのも、先述した共同開発者であるKanoは、6歳の子どもでも家族と一緒に組み立てることができるPC「Kano PC」で知られるベンチャーなんです。
同CEOのAlex Klein氏によると、カニエはこのコンピューターをきっかけにKanoにコンタクトをとってきたそうで、「より幅広い人たちに音楽を身近なものにしたい」という思想が根底にあることが伺えます。
画面も専用アプリも存在しないため、本体操作だけでリミックス、保存、Bluetoothペアリングを行わなければならないのは、一般的な音楽機材やガジェットの観点からすればかなり不自由。目当ての曲を聴くのにも、ひたすら曲送りを繰り返さないといけません。
さらに本格的にカニエの楽曲を解析したり、DAW(音楽制作ソフト)にインポートしてリミックスしたりしたいと考えていたユーザーからしても、「ヴォーカル/インストゥルメンタル/ベース/ドラムス」の4パートしか触れないステムデータは物足りません。
しかし、Alex Klein氏が先のインタビューで「このSTEM PLAYERを“体の延長のような感覚”を持ったデバイスに仕上げ、“人々が消費するだけでなく、創造することができる世界”というカニエのヴィジョンの実現に近づくことを目指した」と話しているのを踏まえれば、STEM PLAYERがターゲットとするのはもっと幅広い人たちなのでしょう。
それは言ってみれば、教育的で民主的なプロダクト。
STEM PLAYERへの批判として、『ドンダ2』を200ドルのSTEM PLAYER独占配信としたことから「音楽を多くのリスナーから取り上げている」というものがあります。それも一面では間違ってはいません。
一方で、カニエは『ドンダ2』が土壇場でSTEMPLAYER.COM独占配信になった理由について「Apple MusicやSpotifyといった配信プラットフォームはアーティストの利益を不当に搾取している」旨の発言をしていましたが、Alex Klein氏によると以前からこの計画はあったそう。
つまり、カニエからすれば「現在、音楽の価値は不当に低い=中間搾取は不要である」「STEM PLAYERを使えば音楽をさらに身近に感じられ、“自分も作ってみよう”と思うまでのハードルを下げることができる」「誰もがクリエイター=神になれる世界へ近づこう」という考えなのでしょう。
実はこのSTEM PLAYER、MIDIコントローラーとしての機能も備えており、音楽制作機材としても使うことができます。なぜそんなニッチな機能をわざわざ加えたのかといえば、「このプレイヤーをきっかけに音楽を作りはじめてほしい」という考えの表れに他ないでしょう。
先に紹介したSTEM PLAYERへの批判も、カニエの言い分もわかります。
でも、ひとつだけ。
「その辺、カニエ自身がもう少し説明しても良くない?」
https://news.google.com/__i/rss/rd/articles/CBMiMmh0dHBzOi8vd3d3Lmdpem1vZG8uanAvMjAyMi8wMy95ZS1zdGVtLXBsYXllci5odG1s0gEA?oc=5
2022-03-31 12:00:00Z
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