わたしが初めてプロのマッサージを体験したのは去年の12月、友人たちと企画した“スパを楽しむ休日”に出かけたときのことだ。わたし以外はみな、事前カウンセリングが必要な、服を脱いで受けるマッサージを選んだので、個室でのマッサージだった。一方、わたしだけは指圧マッサージを選んだため、半個室で着衣のままの施術となった。マッサージ後はとてもリラックスできたものの、施術中は快適とは言い難い時間だった。手足が痛いほど伸ばされ、早く終わってくれと心の中で思っていたからだ。
今回、完全自動マッサージテーブルAescapeの話を聞いて、シンプルに興味がわいた。テーブル(ベッド)の両サイドにはロボットアームがついており、これがあればどんな部屋もSFチックな診察室のように見えるだろう。心落ち着く禅の雰囲気からは遠い見た目だが、その機械っぽさを許せてしまうほどの利点がある。それは、完全なるプライバシーが得られることだ。そう、マッサージの施術中、室内にいる人間は自分だけなのだ。
マッサージ体験はすべてオンデマンドでつくられる。Aescapeのアプリからさまざまなマッサージオプションを確認し、空いているマッサージテーブルを予約。わたしが試したのはニューヨークのAescape本社にあるものだ。同社はフィットネスクラブのEquinoxと連携しており、6月にはニューヨーク市内にロボットアームマッサージテーブルを10ロケーションで設置予定だという(マッサージテーブルの利用にEquinoxの会員である必要はない)。ニューヨーク以外の米国の都市での展開がいつ頃になるか、その詳細は明かされなかったものの、将来的にはホテルやスパなどほかのロケーションも追加していく計画だという。マッサージは1セッション60ドルからだ。
ロボットによる施術
どのロケーションで予約をしても、Aescapeのマッサージの流れは同じだ。まず、到着するとマッサージのためにつくられた「Aerware」というAescape独自の施術服に着替える。これを着用することで、頭上にある深度センサーがユーザーの体を確認する助けとなり、「Aerpoints」と呼ばれるタッチセンサーが体に触るのに適した摩擦レベルを確保できる。Aerwareの着心地は、よくあるワークアウトの服と同じで、施術中も快適だった。
着替えが終わったら、マッサージテーブルに横たわる。頭をフェイスピローに載せると、タッチスクリーンに挨拶のメッセージが表示され、マッサージを選択するよう指示される。サービスローンチ時、Aescapeが提供するマッサージプログラムは20種類だが、年内にはさらに増える予定だ。プログラムは、運動のリカバリーに特化したもの、一般的なウェルネスにフォーカスしたものなどさまざまだ。今回のデモ体験では、背中全体から腰、臀部にかけたマッサージだけを選ぶことができた。
次のステップはボディスキャンだ。マッサージテーブルの真上にある赤外線センサーが、体の3Dモデルをキャプチャーする。Aescapeいわく、110万を超える3Dデータポイントを生成することで、体の姿勢を正確にマッピングし、入念にマッサージすべきエリアを特定するという。このスキャンは、Aerpointsがユーザーの体をよく知るためのステップとなっているのだ。
ここまで聞くと気になる人も多いのではないだろうか?──Aescapeがユーザーの背中のビジュアル画像を収集する可能性はないのか、と。答えはYESでありNOでもある。Aescapeは、ユーザーの体の可視化画像を確かにシステムに保存する。だが、それは“個人を特定しない画像”として保存される。なので、利用した人を画像から追跡して特定することはできない。少しホッとする情報だ。
それぞれのマッサージ施術で得られた情報は、Aescapeの機械学習アルゴリズムのトレーニングに使用される。そうすることで、Aescapeはさまざまな体型の人に適したマッサージを知る手がかりを得ることができ、回を重ねるごとにマッサージも進化していけるという。Aescapeの創業者であり最高経営責任者(CEO)のエリック・リットマンはこう語っている。「これによって、ユーザーがほぐしてほしいと思う肝心なスポットに確実にリーチする能力、体をより理解する能力、もっと個人に特化した高度なカスタマイズ施術を提供する能力が進化を続けられます」。無事スキャンが完了すると、ロボットアームはただちに仕事に取り掛かる。
ディスプレイ画面の左にはマッサージ工程のタイムラインが表示されており、いつどの部分(肩や背中の真ん中など)を重点的に施術しているのか、各部分の所要時間、次に揉む部分が確認できる。リットマンいわく、将来的には施術中にこのタイムラインを編集できるオプションもつけるつもりだという。画面右にはわたしの3Dスキャンしたボディが表示されており、Aerpointsがどこを動いているのかをリアルタイムで見ることができた。好ましいと感じた機能のひとつがまさにこれで、マッサージ全体の流れのなかでいまはどのあたりにいるのか、そしてどこを実際にほぐしているのかがわかることで、よりリラックスできたのだ。
タッチスクリーンはコントロールセンターの役割も兼ねており、マッサージ体験全体のカスタマイズができる。施術がスタートする前は、ヘッドレスト、アームレスト、レッグピローを調整。始まってからは、画面のメーターを上下にスワイプすることで、マッサージの強さ、圧力を調整できる。また、このスクリーンはエンタメセンターとしての役割もあり、施術中のBGMを選んだり、自分の3Dスキャンに飽きたら画面に表示される画像を変更(雪、雨、波など)したりすることも可能だ。
人によるマッサージを再現
実は正直にいうと、施術をされる前は言葉では表せないほど緊張していた。Aerpointsが触れる瞬間、体が硬くなるのを感じた。アームの無機質さや冷たさを想像していたからだ。ロボットのマッサージと聞いて身構えてしまうのもしょうがないだろう。しかし、驚くことにAerpointsは温かく、タッチも優しかった。すぐに体から力が抜けてリラックスするのを感じた。
マッサージの感覚の再現度の高さには驚いた。これは、Aescapeがマッサージ師と協力してシステムをトレーニングしたことが影響しているのかもしれない。施術全体を通して、揉む場所に応じてAerpointsは柔らかいタッチでフラットな面や尖ったエッジをスピーディに使い分けていた。腰のマッサージに移る前、凝り固まった肩をほぐすのに時間をかけていたのも感じた。
リットマンから、施術の途中で圧を高めてみるようおすすめされたが、怖くてできなかった。気づいていない人のために補足しておくと、わたしはマッサージに対しては消極的であり、もみ返しを恐れて強いマッサージには挑戦できないタイプなのだ。それでも、数秒だけ圧を高めてみたのだが、体がマッサージテーブルに強く押し付けられる気がしてすぐに弱めてしまった(ちなみに、これはAescapeではなくわたし個人の問題で、子どものときに見た映画『ファイナル・デスティネーション』による影響が大きいのだと思う。)
Aescapeにはひとつだけ物理ボタンがついている。スクリーンの上部にある緊急停止ボタンだ。押すとアームの動きが直ちに止まり、ベースが外れ、体からアームが離れる。そのほか、ソフトウェアのコントロールには停止ボタンと圧力の調整ボタンがある。ちなみに、圧を最大まで上げても人間の力を超えることはない。
リットマンいわく「アームには快適なマッサージのための圧を加える力しかありません。場合によってはロボアームより人間のマッサージ師のほうが力が強いこともあるでしょう。整形外科医の協力を得て、体の異なる部位ごとにどれほど力をいれても大丈夫か、レポートにまとめています。複雑な3Dモデルのおかげで、無意味に力を加えているわけではないのです」
確かに、Aerpointsが無作為に刺激していると感じることは一度もなかった。むしろ非常に注意深く各部をマッサージしていると感じた。マッサージが終わる頃には、来たときよりずっと体がほぐれていた。最高だ。ただ、最も好ましいと感じたのは、施術中ずっと、施術そのものを自分がコントロールしていると感じられた点だ。力の強さも、BGMも、スクリーンの画像も自分が調整できると思うと気持ちが和らいだ。完全なるリラックスの妨げとなる人間のマッサージ師にわたしが感じていた不安は、今回はまったくなかった。
Aescapeいわく、ロボットアームのマッサージテーブルは人間のマッサージ師に置き換わるものではないという。コロナ禍から業界が立ち直るなかで、隙間を埋めるためにデザインされたものなのだ。「マッサージ師という職業は、平均すると7年で人が辞めてしまいます。手首や腰への負担が大きいからです」とリットマンは語る。「業界のなかの人、ホテルやスパと話していくうちに、最大の問題は需要に十分応えられないことなのだとわかりました。これは、危機的状況にある産業を補強するソリューションなのです」
現在Aescapeは、体の各部にアプローチする能力を高めるため、これまでの施術から学んだ情報を使用している。今後はユーザーそれぞれのニーズに合わせたテーラーメイドのマッサージを提供できるようにしていく予定だ。将来的には、念入りに揉んで欲しいところ、けがで避けるべきところなど、より細かく体の部位を指定できるようになるという。
また、ユーザーのプロフィールに、アームレストやレッグピローの位置、好みの力加減やマッサージの種類などの設定情報も保存し、次回以降のマッサージに活用できるようにする予定だ。
今回の体験でわたしのマッサージへの見解は180度変わった、というほどではなかった。それでも、マッサージに対するハードルは下がったように思う。アプリを介しての予約も簡単で、施術中のコントロールは自分にある。それだけで、またAerwareを着てAerpointsのマッサージを受けてみようかなと思うのだ。
(Originally published on wired.com, translated by Soko Hirayama, edited by Mamiko Nakano)
※『WIRED』によるギアの関連記事はこちら。
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2024-04-14 02:00:00Z
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