Jumat, 10 Mei 2024

導電性を持つ酵素の触媒メカニズムを解明 - 大阪大学 ResOU

日本が近未来に目指すべき社会の姿として内閣府が提唱している“Society 5.0”では、センサから得られた膨大な情報がビッグデータ解析され、様々な形で人間に還元されます。とりわけヘルスケアに対する関心が高まる近年においては、生体物質のリアルタイムモニタリングやマルチセンシングに注目が集まっています。その中でも、酵素反応と電極反応の共役系を基盤とした電気化学バイオセンサは、穏和な条件下で高選択的に対象物質を検出できるため、血糖値センサなどに実用化されています。特に、酵素が電極と直接電子の受け渡しを行う“直接電子移動(DET)型反応”は、酵素と電極のみで構成されるシンプルな反応系であるため、生体・環境適合性と設計自由度に優れた理想的なバイオセンサ(第三世代型バイオセンサ)を設計できます。しかし、本反応が可能な酵素はわずか30例程度しか報告されておらず、極めて限定的な物質しか測定できない状況です。また、詳細なメカニズムが不明なため、戦略的な酵素創出や酵素探索が困難で、実用化に向けた大きな課題の一つとなっています。

私たちは、強力なDET型触媒活性を持つフルクトース脱水素酵素(FDH)をモデル酵素に利用し、新しいDET型酵素を創出することを目指しています。本酵素は、触媒部位としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を保有する触媒活性サブユニット、ヘムcを保有する電子伝達サブユニット、酵素の発現を担うサブユニットからなるヘテロトリマーです(図1)。FDHは、その卓越した活性の高さから基礎・応用の両面から盛んに研究が行われてきました。加えて、私たちは、2022年にクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に成功し、酵素の全体構造情報を基にした議論が可能になりました。そこで、私たちは構造生物学や計算科学の観点よりFDHの触媒反応について詳細なメカニズムを検討しました。

図1. FDHの立体構造と電子移動経路の模式図

2-1. 計算科学・構造解析・生物電気化学でFDHの触媒反応に関与するアミノ酸残基を特定
ドッキングシミュレーションや相同性検索の結果、3つの変異導入対象のアミノ酸残基(N1146, H1147, N1190)が酵素の基質認識や触媒反応に重要であることが示唆されました。そのため、部位特異的変異導入によりこれらのアミノ酸残基を異なるものに置換した変異体を作製しました。これらの変異体に対して、電気化学測定による特性評価と、クライオ電子顕微鏡(大阪大学大学院生命機能研究科 日本電子YOKOGUSHI協働研究所のものを使用)による構造解析を実施した結果、変異体酵素における基質親和性や酵素活性に変化が見られました。注目したアミノ酸残基の役割をまとめたものが図2(A)です。N1146に対する変異は、酵素活性を保持しつつ、本来の基質であるフルクトースとの親和性を低下させたため、異なる基質への特異性変化を予想しました。他の糖類との反応性を検証した結果、N1146をグルタミン残基(Q)に置換した変異体(N1146Q)ではフルクトースと似た構造を持つタガトースとの反応性が向上していることを確認できました(図2(B))。

図2. (A)FDHの触媒反応に関与する要素、(B)タガトースとの反応性

2-2. ドッキングシミュレーションで基質選択性を説明・予測
作製したすべての新規変異体の立体構造をクライオ電子顕微鏡観察によって解析し、ドッキングシミュレーションを行いました。図3(A)はシュミレーション結果の一例で、フルクトースを認識するための水素結合を確認できました。さらに、図3(B)に示す通り、理論式に従って、ドッキングスコア (DS) はミカエリス定数 (KM) の対数との間に良い相関を示しました。これは、酵素の立体構造から基質選択性を予測可能であることを意味します。一方、コンピューターによる予測構造が、実際の解析結果を再現できるかどうかについても検証しました。その結果、図3(B)赤点線に示すように、クライオ電子顕微鏡による構造を用いた計算とは異なる結果となり、近年顕著な発展を遂げているコンピュータによる構造予測に未だ改良の余地があることが分かりました。

図3. (A)FDHのドッキングシミュレーション、(B)DSとミカエリス定数との相関関係

本研究は、タンパク質計算科学と構造解析、生物電気化学の融合によりFDHの触媒メカニズムを解明した世界初の報告例であると同時に、FDHをモデル酵素として利用したテーラーメイドな第三世代型バイオセンサ開発に繋がる学術的基盤になります。今後、今回得られた情報を軸として、コンピュータを用いた機械学習や反応予測方法などを織り交ぜることで、触媒活性部位の基質特異性を高度に改変し、生体物質や有用化合物を高感度かつ高効率にセンシングできるプラットフォームの構築を目指していきます。そのため、本研究は高い学術的価値を有するのみならず、学際融合による触媒開発と第三世代型バイオセンサの社会実装を加速し、環境や生体に優しい持続可能な社会の実現に貢献します。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Structural and electrochemical elucidation of biocatalytic mechanisms in direct electron transfer-type D-fructose dehydrogenase
(構造及び電気化学的手法による直接電子移動型フルクトース脱水素酵素の触媒メカニズム解明)
著  者: Eole Fukawa, Yohei Suzuki, Taiki Adachi, Tomoko Miyata, Fumiaki Makino, Hideaki Tanaka, Keiichi Namba, Keisei Sowa, Yuki Kitazumi, Osamu Shirai
掲 載 誌: Electrochimica Acta, 490, 144271 (2024), DOI: 10.1016/j.electacta.2024.144271.

本研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構AMED BINDS制度(JP22ama121003)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP21H01961、JP22K14831)、JST革新的GX技術創出事業(GteX)(JPMJGX23B4)、京都大学への寄附金(加来裕生氏、王厚龍氏、濵野泰如氏)の支援のもとで実施されました。

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2024-05-10 09:15:07Z
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