2024.05.13
近赤外線高分散分光器WINEREDは、様々な原子や分子の吸収線・輝線が密集する波長1ミクロン付近で高い波長分解能を発揮する、天体観測用分光器です。世界で一番の高感度を誇っており、口径6.5メートルのマゼラン望遠鏡との組み合わせにより、様々な天文学的テーマにおいて利用されています。今回は、そんな中から、いくつかのテーマをピックアップして最近の成果をご紹介します。
これらの研究成果以外にも、マゼラン望遠鏡を用いた天の川銀河中心付近の球状星団の観測成果(Minniti et al. 2024)や、WINEREDがマゼラン望遠鏡に移設される以前に運用されていた口径3.6メートル・NTT望遠鏡(チリ共和国、ラ・シヤ観測所)での観測成果(Mizumoto et al. 2024)、WINEREDで得られる複雑な観測データを研究者が利用しやすいスペクトルのデータに整えるためのソフトウェアWARPの開発論文(Hamano et al. 2024)など、続々とWINEREDに関連する研究成果が論文として出版されています。マゼラン望遠鏡での観測は高地であるため非常に厳しい環境での観測準備が必要ですが、そうした準備や装置の維持管理は、天文学者だけではできません。毎年の春・秋の観測シーズンごとに、日本から神山天文台の技術系スタッフが1~2ヶ月ほど海外出張をして、これら観測のサポートや装置更新をしています。いろんな立場のスペシャリストが協力することではじめて、ここでご紹介したような学術成果が得られるのです。
松永典之氏(東京大学大学院 助教、本学客員研究員)が中心となり、わたしたちの天の川銀河におけるセファイド変光星の金属量探査が進んでいます。セファイド型変光星は明るさが変動する変光星の一種であり、変光周期から本当の明るさが分かるなど、天文学において重要な役割を果たしています。また、こうした変光現象が生じる年齢(星が誕生してからの年数)がある程度、限定できるため、私たちの天の川銀河の過去を知る手がかりにもなります。すでに、その初期成果は米国天文物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されており、天の川銀河の中心付近での元素合成の歴史が明らかになりつつあります。なお、セファイド型変光星は、京都産業大学の創設者である宇宙物理学者・荒木俊馬博士の研究テーマのひとつでもあり、そのセファイド型変光星の観測研究が神山天文台で開発したWINEREDによって進められていることは、こうした天文学研究が本学の伝統であることを物語っています。
論文誌へのリンク(英語)
Matsunaga et al. "Metallicities of Classical Cepheids in the Inner Galactic Disk"
太陽系外惑星の大気金属量と大気散逸の関係解明
原始惑星系円盤におけるガス散逸過程の解明
論文誌へのリンク(英語)
Katoh et al. ”[N i] 10400/10410 Å Lines as Possible Disk Wind Tracers in a Young Intermediate-mass Star”
https://news.google.com/rss/articles/CBMiOWh0dHBzOi8vd3d3Lmt5b3RvLXN1LmFjLmpwL25ld3MvMjAyNDA1MTNfODU5X3dpbmVyZWQuaHRtbNIBAA?oc=5
2024-05-13 06:55:50Z
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