テレ東プラス編集部と少女写真家 飯田エリカさんが、映像作品『ひかりあつめ』を制作するにあたり、最初に行ったのが、今回のテーマであり撮影機材でもあるX-T3がどんなカメラなのかを紐解くインタビューです。
取材対象は、X-T3はもちろん、その他の富士フイルムのミラーレスカメラ「Xシリーズ」の商品開発を手がけてきた、富士フイルム 光学・電子映像事業部の営業グループ統括マネージャーである上野 隆さんです。
フィルムカメラの歴史をデジタルに取り込み新しい価値を生んだ、富士フイルムのミラーレス。
▲富士フイルムの上野 隆さん
――富士フイルムのミラーレスカメラの商品開発を手がける上野さんですが、もともとはフィルムを専門としていて、デジタルカメラとは無縁だったそうですね?
「はい。以前はプロフェッショナル写真部という、プロの写真家さんにフィルムを使ってもらうための部署で仕事をしていました。そこでは『デジタル時代にフィルムで撮る写真愛好家を増やす』というミッションのもと、写真教室やいろんなイベントを仕掛けていました。ですが、2010年に富士フイルムのデジカメチームが従来のコンパクトデジカメではなく高級カメラにチャレンジすることになり、アドバンストアマチュアとプロを相手にしてきた僕がアドバイザーとして呼ばれました。そこで初めて手がけたデジタルカメラがX100というカメラです」
――X100はとてもクラシカルな印象のカメラです。
「前から見るとフィルムカメラのようにしか見えないカメラです。僕自身、小さい頃からずっと何十台とフィルムカメラを使ってきた中で『カメラはこうあってほしい』という強い思いがあるんです。だから他社のデジタル一眼レフカメラには全く惹かれるところがなく、フィルムの部署にいた時はライカ、ハッセルブラッド、ローライフレックス、コンタックスといったカメラを使っていました」
――どれもやはりクラシックな印象の強いカメラメーカーですね。
「AFもなく、全部ダイヤルで設定し、一枚ずつフィルムを手で巻き上げながら大事に撮るカメラです。だからデジタルによくある『1秒間◯コマ撮れます』みたいな売り文句は正直どうでもいいと思ってました(笑)ライカのカメラがなぜスナップ写真を撮りやすいかといったら、電源を入れなくてもシャッタースピードや絞りなどのセッティングができるからなんですよね。そういうことがカメラにとっていかに大事なのか、ということをスタッフに強烈に説明しました。その結果できたカメラがX100でした。ただ、当時のEVFは表示の遅延がすごかったので『スルーファインダーにしてください』と伝えたら、スルーファインダーとEVFを切り替えるという、私の予想以上のファインダーを開発者が返してくれて、それには良い意味で驚かされました(笑)」
――デジタルとフィルムの癒合で新たな価値が生まれたのですね。
「X100はおかげさまで評判になり、新聞社などからたくさんの取材を受け『新しいコンセプトですよね』と言われました。でも、基本的には新しくもなんともないんですよ。フィルムカメラの撮像素子をデジタルにしただけなので。フィルムカメラには、ライカやニコン、キヤノンなど、各社が使いやすくシャッターチャンスを逃さないように一生懸命考えてきた歴史があるんです。基本的に僕らは従来のデジカメが勝手に放棄していた、それらの要素を取り込んだだけなのです」
カメラへの圧倒的なこだわりと、万人のための使いやすさを両立した「X-T3」
▲少女写真家 飯田エリカさん
「そうしてX100が好評を得たこともあり、いよいよ『次はレンズ交換式だ』ということになって作ったのがX-Pro1です」
――これもクラシカルな外観が個性を放つ人気シリーズですよね。
「ところが、大きな誤算があって、当初は売れませんでした」
――そうだったんですか?
「システムカメラと単独商品の違いですね。レンズ交換式になった途端に、単体商品ではなく"システム"になるんです。『交換レンズは何本あるの?』『フラッシュは?』など、あらゆる要求に応えることができて、初めてそのマウントに投資できるというわけです。だから『レンズ3本とボディだけ出されても、そんなの将来どうなるかわからないし、買えるわけがないだろ』と言われてしまいました」
――なるほど。
「我々はトップエンドカメラをあまりに知らなかったんですね。X100が成功したから、そのレベルで良いと思ってしまった...。なので、そこからコツコツとファームウェアを直していって、後期は『別物だね』と言われるくらいAFも高速化し、今でも『Pro1が好き』と言ってくれる人がいるくらいです。そして2014年の2月に、今回のX-T3の初代機であるX-T1を発表し、大ヒットしました。そこからXシリーズが広くカメラユーザーに認知をされて、現在につながっています」
――「X-T3」は富士フイルムのカメラシリーズの中でどのような位置付けなのでしょうか?
「まぎれもない"主力製品"です。趣味に走りすぎることなく、実用性を十分考慮した上で、カメラらしい愛着を持てるデザインと操作性をキープしたバランス型の優等生で、万人が『これはいいね』と言ってくれるようなカメラを目指しています」
――これまで伺ってきた圧倒的なカメラへのこだわりを注ぎながらも、広く使えるカメラというわけですね。
「はい。その一方で、バランスを考えることなく振り切ったカメラが、レンジファインダースタイルのX-Pro2です。これはもっとスナップに特化したようなカメラで、大好きな人は大好きですが、受け付けない人は全く受け付けられないようなカメラになっています」
富士フイルムのデジタルカメラのコンセプトは「カメラの原点」
――富士フイルムのミラーレスカメラ全体を通したコンセプトとはなんでしょうか?
「Xシリーズのコンセプトは"カメラの原点"です。それは『カメラは写真を撮る機械である』ということであり、どうすればシャッターチャンスに良い写真を撮れるのかを愚直に追求するということです。だから我々には、スペックさえ良ければいいという考え方はありません。常に時代は便利な方向へ向かっていますが、私たちはカメラに求めるものを一切フィルム時代と変えていません」
――なるほど。
「我々はフィルムをリスペクトしています。だから画質に関しても、フィルムと比べても遜色がないものを目指しています。Xシリーズで撮った写真をプリントすれば、フィルムの広い階調、立体感と並べても、違いがわからない、そういうレベルです。その最たるものがフィルムシミュレーションですね」
――(飯田)X-T3を使って女の子を撮影してみて、このレベルで女の子が綺麗に撮れるカメラは初めてだと感じました。JPGでそのまま使えるくらいです。
「ずっとフィルムをやってきた僕らからすると、RAW現像などのデジタルでの画像処理は、本来は写真家ではなくラボマンの仕事であり、別のスキルなんです。それなのに、写真家が自分で現像しないとまともな色にならないカメラというのは、ダメなのではないかと思っています。それに対し、富士フイルムがずっとフィルム作りを続けてきた中で大事にしているのは、どんな時でもちゃんと写真が写り、なおかつ綺麗な色が出ることです。そのためにデジタルカメラが今やれることは"JPG撮って出し"でもある程度露出さえ当てておけば、そのまま入稿データとして使えるクオリティーの写真を出すことだと考えています」
――(飯田)それにしても富士フイルムのJPGの美しさは特筆すべきだと感じました。どんな秘密があるのでしょうか?
「フィルムシミュレーションに関しては、実際にフィルムを作っていた部門のメンバーがデジタルに異動して作っているということが大きいですね。フィルム時代から研究を続けてきた"記憶色"や"期待色"といった概念に対するノウハウを注ぎ込み、さらに研究を続けているんです。かけている時間が違います」
富士フイルムがフルサイズに手を出さない理由。ハリウッドも望む"フィルムルック"
――XシリーズはセンサーがAPS-Cサイズです。他社がより大きなフルサイズセンサーに主力機を投入する中、富士フイルムがAPS-Cにこだわる理由とは?
「良い写真には、良いレンズが必要です。富士フイルムはレンズラインナップの半分以上がズームレンズではなく単焦点レンズであるという珍しいブランドなのですが、そこには『写真の原点は、明るい単焦点レンズでフットワークを使って良い写真を撮ること』いう考えがあります。だから我々はフルサイズを選ばないんです」
――フルサイズになるとボディやレンズが大きくなってしまうから?
「それが大きなポイントです。フィルムと同じセンサーサイズが"フルサイズ"ですが、その規格がフィルム時代から引き継げたものは、その大きさだけとしか思えないんです。フルサイズセンサーを搭載したら、フィルム時代のボディやレンズの大きさは維持できません。今のフルサイズカメラやレンズの大きさをみてください」
――たしかに一眼レフに対してミラーレスカメラは小型化していますが、フルサイズの場合、レンズはどれも大型な印象です。
「フィルムは斜めからの光も受けることができるので、小型のレンズ設計をできましたが、デジタルは斜めからの光に弱いので正面から光を入れなくてはなりません。そうなるとレンズを前に伸ばす必要があり、大型化してしまうんです。さらに値段も高額になってしまいます。フルサイズ用のレンズの場合、50mmのF1.4なのに20万円以上したりしますからね。普通はそのスペックのレンズなら5万円以下です。同じ焦点距離のレンズと、同スペックのボディをAPS-Cで揃えたら、フルサイズの3分の2の大きさ、値段は半額以下で済みますよ」
――総合的にはAPS-Cがもっともフィルムカメラに近い、と。
「フルサイズセンサーは解像感において優れていますが、画質においてシャープさは一要素でしかありません。色再現や立体感、階調、ダイナミックレンジなどいろんな要素が絡み合って良い写真ができるので、シャープさだけが正義ではないんです」
――特に女性の肌が写りすぎてしまうなど、高まり続ける解像感は写真だけでなく映像においても大きな課題になっているように感じます。
「そうですね。僕はシネマレンズの企画も担当していて、ハリウッドの撮影監督にヒアリングしたりもするのですが、彼らが一様に言うのは『もう解像度を向上させる必要はない』ということです。『そんなことよりも暗い映画館で2時間以上観続けられる階調や、自然で優しい写り、ダイナミックレンジの方が大事だ』とすごく言われるんです。『ひとことで言うとフィルムルックだよ』って。正直、そこまで言うなら『フィルムで撮ればいいじゃん』と思ったりもするんですけど、でも、やっぱり世界中でそれが求められているんですよ(笑)」
以上、富士フイルム上野さんへのインタビューから伺えたのは、フィルムカメラ時代から続く「優れた写真とは?優れたカメラとは?」という問いかけに対する愚直なまでの探求です。写真の本質を追求するからこその、伝統を重視する姿勢と、あえて伝統から外れる冒険。そこにはもはやこだわりを超えた、哲学的なものすら感じさせられました。
自身もフィルム写真を重視している少女写真家 飯田エリカさんは、このインタビューとX-T3の使用感をもとに一つの映像作品を作り出しました。その作品『ひかりあつめ』をぜひご覧ください。
カメラが、日々を美しくする。少女写真家 飯田エリカ×富士フイルムX-T3「ひかりあつめ」
https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/lifestyle/entry/2019/019675.html
2019-06-28 11:12:19Z
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