PHILE WEB掲載のイヤホン&ヘッドホンレビュー記事で試聴音源として使われていた曲からピックアップ。プロレビュアーが信頼を置く高音質曲はもちろん、音楽ファンにとって身近な曲を選んで流行のサウンドとの相性をチェックしている場合もあります。それらのオーディオ的な聴きどころとは?
■LiSA「紅蓮華 - From THE FIRST TAKE」
おなじみ「紅蓮華」の歌とピアノだけのアレンジです。注目はバンドサウンドの場合とは異なる歌唱アプローチ。全体を通して声の低域側をより強く響かせていますし、ファルセット成分も増えています。語尾などのニュアンス付けもより豊かです。バンドサウンドと被りやすい帯域やバンドサウンドの中では埋もれやすい表現も、その配慮が必要のないこのアレンジではフル活用。バンドがいなくてもそれに劣らない情感や迫力を叩き出すためにリミッターを外したフル表現力モード! みたいな感じですね。そのボーカルの繊細な表現、声自体の強さや艶やかさなどをどれだけ感動的に届けてくれるか。イヤホンやヘッドホンへの要求も厳しい楽曲です。
■YOASOBI「夜に駆ける」
エレクトロな印象も受ける楽曲ですが、主な構成要素はボーカルにピアノ、ギターとベースにドラムスと、バンドサウンドのそれ。ではエレクトロな印象はどこからくるのかというと、特に強いのはピアノでしょう。鍵盤ではなく画面に向かって組み立てられたフレーズらしい音の並びやリズムです。それをシンセの音色で鳴らすとありがちなエレクトロっぽくなってしまいそうなですが、ピアノの音色で鳴らすことで独特の強い印象が生み出されています。ですのでイヤホンやヘッドホンにも、そのピアノの煌びやかな音色を鮮やかに描き出してほしいところ。スラップ系ベースなど全体にキレの良さも持ち味なので、再生側でそのキレを損ねないことも大切です。
■山中千尋「Donna Lee」
伝統的に優秀録音作品が多いジャズの世界から、ピアノ・トリオの最新優秀録音です。ポータブルオーディオ層の好みとはあまり重ならないかもしれませんが、アコースティック楽器を生々しく録音するとはこういうことだ!を体感しておくことも、趣味を深めるためには有用でしょう。例えばドラムス。ポップスでは各パーツごとのオンマイク成分を組み立ててドラムス全体の音を作り上げる手法が主流ですが、ジャズでは最初から全体の音をまとめて捉えるオーバーヘッドマイク成分を軸に調整するのが主流。最大級のアコースティック容積を持つ低音楽器、ウッドベースの活躍もポイントです。それらはイヤホンやヘッドホンからはどう聴こえるのでしょうか?
■Michael Jackson「Beat It」
最高のアナログ設備を揃えたスタジオに最高のミュージシャンやエンジニア、プロデューサーらが集結して作られていた、ポップスが最もゴージャスだった時期を象徴する作品のひとつです。初代ウォークマンが発売されてまだ数年というタイミングですから、ポータブルオーディオなんてものは全く想定されていない音作りなはず。ですがイヤホンやヘッドホンで聴いてもそのビッグでゴージャスなサウンドが崩れることはありません。ビッグでゴージャスな音作りでありながら、帯域バランスや各楽器の定位などはスタンダードな整いであり、高い完成度だからでしょう。それが崩れて聴こえるならイヤホンやヘッドホンの側の癖が強いのかもしれません。
■Oscar Peterson Trio「You Look Good To Me」
こちらもピアノ・トリオですが、こちらは半世紀以上も前に録音された作品。ドラムスは左、ピアノは真ん中、ベースは右と明確な割り振りの楽器配置に時代を感じます。そのようにやはり古さもあるのあるのですが、楽器のひとつひとつに耳を傾けると、それを超えた鮮度を感じられます。もう冒頭すぐに、ドラムスのチャイムの輝き、ベースのボウイングの響きに驚かされるほどです。音楽やオーディオの世界には、ワイドレンジだとかクリアさだとかそういった要素とは別次元での音の良さというものがある。それを体感できる名録音です。
■BTS「Butter」
流れ変わってこちらは現代ポップスを代表する楽曲。それでいて、どちらもアメリカを中心に世界のヒットチャートを制した作品という共通点が時代を越えるのか、音場のスケールの大きさなど、マイケル・ジャクソンの曲とどこか似た雰囲気も感じられます。シンプルなビートとぶっといシンセベースを軸にブロックごとにサウンドを増やし、サビでは空間の広がりも演出して一気に開放感!という単純な構造の曲だからこそ、それを構成する個々の音色の再現性へのオーディオ的な要求は厳しめ。それは、ひとつひとつの音を磨き上げて最小限の音数で最大限の効果を得るという、現代の音作りのトレンドに沿った楽曲全般に共通するポイントでもあります。
■LiSA「紅蓮華」
先に挙げたボーカル&ピアノのバージョンでのボーカルと聴き比べると、こちらはバンドサウンドに負けず埋もれず突き抜けてリスナーに届く声、歌い方になっていることがわかることでしょう。そういう歌い方にしなければ負けてしまうほど、バンドサウンドが強烈なのです。オーディオ的にもポイントになるのはギターとベースの低い音域。ギターはダウンチューニングによる低い音域のフレーズでも鋭いエッジによる明瞭さを備えます。多弦ベースは特にサビでの、バンド全体の底に潜り込むような低重心が印象的。それを不明瞭にボワボワした音にしたり、重心を上に浮かせてしまったりするイヤホンやヘッドホンだと、この曲本来の迫力は引き出せません。
本プレイリストはApple Musicで公開中。すべての曲が配信されており、試聴可能です。
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2021-10-01 22:11:26Z
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