日本では“不思議のダンジョン”シリーズ「トルネコの大冒険」や「風来のシレン」が有名で,近年ではデッキ構築型の「Slay the Spire」,サバイバー系の「Vampire Survivors」など,ローグライクと別ジャンルを組み合わせた路線が大ヒットしたのも記憶に新しい。
でも……ローグライクの“ローグ”とはなんなのか? 「Rogueという作品をリスペクトしているからローグライク」という解説はいくらでも見聞きしてきたが,私はローグを知らずにライクを愛した。それと同じように,ローグのことを知らない人も多いはずだ。
だから,40年以上前のコンピュータゲーム,気にならない?
そんなわけで,ローグライクしかやったことがない人間が,当ジャンルの始祖たる「Rogue」を実際にプレイすることにした。
ちなみに本作の初版は1980年に公開され,その後も多数のバージョンに派生したとされる。今回選んだのはそのうち,Epyxが開発し,Pixel Games UKがSteamで販売中の「Epyx Rogue v1.49」だ。
こちらは当時のIBM PC向けに販売された版の移植で,ストア上のリリース日は“1985年6月1日”となっている。うーん,歴史がすごい。
この時点で本作について知っていたことは,Steamページと4Gamerの記事に書いてある情報くらいのものだった。まあ,シレンシリーズは大好きだし。StSは1000時間以上やったし。余裕でしょ。
Likeの源がどのように現代へと受け継がれてきたのかを余裕で確認してやりますよ! なんなら1時間でクリアしてやりますよ!
なお,企画の相談中に担当編集から受けたアドバイスは。
直撃世代の編集長からもらったコメント
・だいたい「T」で死ぬよ
・そもそもキーアサイン覚えられないよ
という意味不明なものだったが。まあ,余裕ですよ!
初っぱなから右も左もワカリマセン!
さっそくゲームを起動してみると,解像度が低めなまがまがしいタイトル画面にお出迎えされた。やー怖いな。
ちなみに本作は英語版のみで,日本語版などない。英語パラメータが低めなだけに,まともにプレイできるか不安である。
なにかキーを入力をすると,次の画面に進めた。
「Rogue’s Name?」と聞かれたので,名前を答えた。
まあ,ここまでは王道のRPGって感じ。次はチュートリアルかな?
……。
…………。
………………???
いきなりダンジョンらしきフロアに放り出された。
チュートリアルは? そんな軟弱なものはないらしい。見た目は不思議のダンジョン系のミニマップに近いが,文字情報(ASCIIコード。アスキー文字とも)だけのデザイン構成が理解しがたい。
操作方法も分からないので,とりあえずキーボードを闇雲にたたく。こんなことするの,メイプルストーリーでキー設定の出し方を忘れたとき以来だ。そうした試行錯誤の結果,どうにか移動キーを割り出せた。
[y]左上 [u]右上
[h]左 [j]下 [k]上 [l]右
[b]左下 [n]右下
移動キーは[WASD]ではなく,[YUHJKLBN]であった。クセすごすぎない? とくに斜め移動がキツい。右上[u]が,左[h]と下[j]の上にあるのはキーボード配列的に設計ミスじゃなかろうか。あるいはこれが当時の配列だとしっくりくるのか。まあ,慣れるしかない。
しかし,これ以外の操作も自力で割り出すのは面倒だったので,ネットという文明の利器で調べることにした。すると,Steamページにマニュアルがあった。普通に見落としてました。ごめんなさい。
偉大なマニュアルを手に入れたため,そこに書いてあった基礎情報をあらためて紹介しておこう。ゲームのクリア条件は,ダンジョンの地下26階以降に存在するアイテム「Amulet of Yendor」(イェンダーの魔除け,と言うらしい)を持ち帰ることだという。
ゲーム画面の見方は,画面下側の黄色文字がプレイヤーのステータス。左から順に,ダンジョンの階層「Level」,体力「Hits」,力「Str」,お金「Gold」,防御力「Armor」,一番右の文字列が「ランク」を表している。ランクはプレイヤーレベルのようなもので,経験値を一定量獲得することで上昇し,それに伴いステータスも上がる。
Levelとランクの捉え間違えさえしなければ,支障はなさそう。
マップ上にはいくつかのシンボルが表示される。左上の黄色いニコニコマークは「プレイヤー」,緑の点は「視界/視認範囲」の意で,記号がアイテムや階段などの「オブジェクト」,ローマ字が「敵」だ。
敵たちはHobgoblinなら「H」,Batなら「B」,Slimeなら「S」といった具合に,それぞれの頭文字だけで表現されている。
なお,上の画面に敵はいないので探してもムダである。
このほかの操作方法は[F1]キーで,シンボルは[F2]キーで調べられた。マニュアルはけっこうな文量のため,開始前に読み切るというより,分からないことに遭遇したときに読むのがよさそうだ。
操作とUIが理解できたので,ダンジョンを進んでみる。
基本の流れは,多くの人が知るであろう不思議のダンジョン系とほぼ同様だ。ランダム生成されるマップ内は,階層ごとにマス目で構成されており,敵味方が一行動ずつターン制で動く。暗い通路を進み,いくつかある部屋を探索し,敵やアイテム,次の階層への階段を探す。
進め方のキモは,これまたなじみある「空腹度」を気にしつつ,階層内でレベリングするか,アイテムを集めるために先に進むかの取捨選択で,プレイヤーを強化しながら下層を目指すといったところ。
会敵時は,敵のいる方向に移動入力をすると攻撃できる。しかし,戦闘については現代の普遍的なローグライクと決定的に違う点として“攻撃がやたら外れる”。3連続ミスなんてのはしょっちゅうで,運が悪ければ5連続ミスもあり,ヤケになるとあっさりREST IN PEACEだ(安らかに眠る。ゲームオーバー画面でのメッセージ)。
ローグライクではよく,「次当てたら倒せる」といった“高確率で勝てるギャンブルプレイ”をする場面がある。だが,本作ではそれも成立させづらい(編注:その願望は初代シレンで捨てました)。
いや,信用してはならない。そういう作りだからこそ,確実に倒されない状況で倒す算段を立てる,より冷静な立ち回りが求められる。
語れるドラマがかけらも生まれない連続挑戦の最中,ついにダンジョンの地下7階までやってこられた。そして完全に詰んでしまった。
どう見ても進む道がないのだ。
どうすればいいの? 絶対バグでしょ? 動揺から操作方法を確認していると,[s]キーの「Search for trap/secret door」に怪しさを嗅ぎ取った。ハハーン,そういうことね。とりあえず壁際で[s]を連打しながら歩いていると……やった。次の道が見つかった。
このときは進んだそばから即死したため,次の挑戦時に判明したことだが,こうした隠し部屋探しは[s]を一度押せば見つかるわけではなく,部屋の発見には確率による成功判定も絡んでいるようだ。
つまりマップの作りから考えて,どこに隠し部屋がありそうかの目星をつけて連打する必要がある。恐ろしい仕組みである。
同世代のゲームだと,「ドルアーガの塔」(ナムコ)もこういう感じだったと聞き覚えがあるけれど。恐ろしい仕組みである。
何度も死につつ,地下9階まで到達できたが……暗い。マップ内のすべてが「暗い部屋」だった。通常部屋は進入したときに室内全体を視認できるのだが,暗い部屋は通路と同様,周囲8マスしか視認できない。
これがめちゃくちゃヤバい。極端なケースで言えば,四方八方に100体の敵がいても,周囲8マスに接近するまで気付けない。
地下9階までは視界が広い部屋で休憩し,体力を回復するという作戦で進んできたために,ここにきて急に難しくなった。
一歩一歩の賭けと対策が,マインスイーパーじみている。
プレイしていると「これ不思議のダンジョンで見た」という既知の感覚がたくさんある。厳密には“不思議のダンジョンがRogueっぽい”だが,そこは世代の感覚ということでお目こぼしを。
一例として,空腹時のデメリット(本作ではターンごとに確率で行動不能に),識別しないと効果が不明なアイテム,[t]キーで使う弓・杖といった遠距離攻撃など,10代や20代のローグライカーでも親しみ深いであろう概念が(おそらくオリジナルとして)散見される。
なかでも最も「これ不思議のダンジョンだ!」と感じたのは,敵たちの固有能力だ。力を下げてくるヤツ,ランクを下げてくるヤツ,アーマーを錆びさせるヤツ,お金やアイテムを奪ってどっかにワープするヤツなど,イヤらしくもなじみ深い行動をする敵がわんさかいる。
さらに本作では“敵が26種しかいない”ため,イヤらしい敵と出会う比率がめちゃくちゃ高い。現代のローグライクでは無能力な敵もそれなりに織り交ぜられているが,さすが源泉。軽薄にも「1時間でクリアしてやりますよ!」とか言うタイプは,求められる対策の密度と,それをかいくぐってくる針千本の絶望を前に,四つんばいになりかねない。
コントローラをぶん投げたくなる,いつかどこかで味わった苦しみを何度も何度も,これまでの体験以上にライクできた。
なるほどー。これが諸悪の根源だったんだなぁ(ニッコリ)。
喜びと感動と許せなさをミックスした,複雑な感情が湧いた。
数時間のプレイで数えきれないほど死に,ゲームへの理解も深まってきたころ。本作にはどうしようもない展開が多いことに気付いた。
ランクは順調に上がるが,食べ物が見つからない。食べ物いっぱいだからレベリングしようとして,二歩目で落とし穴に落ちる。アイテムを識別できなさすぎてどうしようもない。Strを下げられまくる。視界が悪すぎて挟み撃ち。Hobgoblinへの攻撃が7連続ミス。そして死。
これらはあそこでああしていれば,という感覚ではなく。
今日はめぐり合わせが悪かったね,という終わり方に近い。
現代のローグライクでは,理不尽さはなるべく排除される傾向にある。攻撃の連続ミス,狭すぎる視界,拾えるアイテムが少ないといったことを調整し,制作者らはストレスを低減している。言い換えれば「引きが悪くても,うまくやればクリアできる」を目指すのが現代風だ。
しかし,本作は理不尽に思える難度で構築され,プレイングを磨き,知識を備えたうえで,上振れを引けばギリギリ乗り越えられる,かもしれない。そうした設計である。要するに「理解して,試行して,すべてがうまくいく周回を引き当てろ」なゲームバランスに思えた。
現代のローグライク事情においては好き嫌いが分かれそうな作りだが,使えるリソースが極めて少ない当時のゲーム作りにおいて,何度も遊んでもらえる作品にするための工夫としてはすばらしい。それにローグライクの核を“リプレイ性の高さ”の一点で見るなら,まさに原点だ。
本作は総合的に見て,「40年以上前のゲームとは思えないほど,現代的な感覚で楽しめる,完成度の高い作品」に感じた。
本作はリプレイ性の高いRPGとして完成しており,破綻もない。数多くの要素がランダムだからこそ,無双感からの突然敗北もあれば,危機を乗り越えたときの達成感もある。リソース管理と環境への適応など,現代のローグライクで愛されている要素と同じものを……いいや,後続の彼らが踏襲してきたからこそ,今でも楽しく飲める原液となっている。
もちろん,不親切なゲームバランスやASCII文字構築の画面からは時代を感じるし,ストレスな展開にブチ切れる場面も多いため,万人にオススメする気はない。「ローグライクを遊ぶなら始祖も遊んどこう」などと押しつけがましく言うつもりもさらさらない。
それでも目に浮かぶ。当時このゲームにハマり,没頭した人たちのたくさんの姿が。このゲームの作りだけで,それがひしひしと伝わってくる。ゲームの幅が今ほどなかった時代に,私で言えばオーパーツのような不思議のダンジョンに出会ったようなものなのだろうから。
それじゃあ,いまだに衝撃が残っていても仕方ないってものだ。
洗練されて遊びやすくなったのが,私の愛したローグライク。
けれど始まりの「Rogue」もまた,魅惑的なボディだった。
客観的に見ても,ジャンル名になるほど好き好きを浴びせられ,特徴を受け継がれてきたその事実だけで,確かな魅力が証明されている。
時代とともに甘く改良されてきたチョコレートなどと同じ。最初の苦みを忘れられずに,愛して改良を重ねてきた人たちに感謝を。そしてRogueという種を育んでくれた開発者に,ありがとうの感謝を。
ローグライクが好きだけど,これからはRogueもLikeです!
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2024-01-06 03:00:00Z
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