こちら「Black Hole Recorder(ブラックホール・レコーダー)」です。
10,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000ギガバイトぶんの情報を扱える蓄音器です。
この驚異的な情報量を可能にしているのが、月ぐらいの質量を持った物体をわずか0.1mmの大きさに圧縮して作られた人工ブラックホール。ひとつのみならず、ふたつも搭載されています(という設定)。
このふたつのブラックホールを容器の温度によって制御することで、膨大なデータを記録したり、取り出したりできる未来の情報ストレージデバイス(という設定)で、2021年3月12日に理化学研究所の東京連絡事務所でその記念すべきプロトタイプがお披露目されました。
え、真っ黒でよく見えない?そりゃそうですよ。だってブラックホールですもん。
これはなに?:「Black Hole Recorder」のプロトタイプ。ブラックホール工学に基づいた未来の音声情報ストレージデバイス(という設定)。
おもな機能:音声情報の記録/再生。
蓄積できる情報量:10の52乗ギガバイト。月の情報量に相当。
サイズ:高さ630mm、幅280mm、奥行き352mm。
質量:約月2個ぶん。
人工ブラックホールのサイズ:直径0.1mm。月をこのサイズに圧縮するとブラックホールになるのだそうです。
人工ブラックホールの温度:約-273℃〜10の32乗℃。
カラー:黒色無双のみ。
お値段:Priceless。
発売日:未定。
吸い込むだけじゃない
ブラックホールの重力に一度吸い込まれたら、どんな物質ももう二度と出てこられなくなるんでしょう?と思いきや、どうやら「Black Hole Recorder」は情報を吸い込むことも、あとからその情報を取り出すこともできるようです。
この仕組みに不可欠なのが、対の記録媒体となっているふたつのブラックホール。ひとつめに情報が蓄積される時、それは地層のようにブラックホールに積み重なっていき、古い情報はより中心に近い場所に蓄積されます。
ではその古い情報を取り出したかったらどうするか?カセットテープみたいに巻き戻すんですね。ただ、ブラックホールはテープのように直線状ではないので、巻き戻しを行なうには外側にある新しい情報の層を剥いでいかなければなりません。
この際、ふたつめのブラックホールは、ひとつめのブラックホールから剥ぎ取られた新しい情報の一時的な蓄積場所として活用されます。だからいつ記録した情報でもあとからちゃんと取り出せますし、保存し続けられるのです。10の52乗ギガバイトの容量を超えないかぎりは。
ブラックホールの常識をくつがえす新理論
ん、ちょっと待てよ?
ブラックホールって光さえも戻ってくることができないイベントホライズン(事象の地平面)と、物質の質量が無限大になる特異点とで構成されていて、それ以外の空間は真空になっているとばかり思ってたのですが、どうやら常識が変わりつつあるようです。
この「古典的なブラックホール」の姿をまったく新しい理論でくつがえしつつあるのが、理化学研究所に所属する天才的な理論物理学者・横倉祐貴博士です。
横倉さんは、ブラックホールの内部構造を一般相対性理論と量子力学のふたつの理論体系を使って解き明かそうとしています。
2020年7月に横倉さんが共著者として発表した論文によれば、ブラックホールはいわゆるイベントホライズンを持たない高密度な物体で、ちゃんと表面があり、内部も物質の層で構成されている可能性があるそうです。さらに、あらゆる物質が気体→液体→固体と相転移するように、どんな物体でも強い重力の下ではブラックホール相という新たな「相」に転移しうることを理論的に導き出しました。
横倉さんが考えるブラックホールならば、「情報は必ず保存される」という量子力学の原理にもかなっているのが最大のポイント(詳しくは論文をどうぞ)。ということは、「情報が保存」されて、もし「情報を取り出す」ことも可能だったら、ブラックホールは未来の超大容量情報ストレージにもなりうるんじゃないか?
そこで、プロトタイプ作ってみた
さて、ここでいよいよ「Black Hole Recorder」の出番。
横倉さんの仮説にインスパイアされた科学者・デザイナー・クリエイター集団が、実際にブラックホールを搭載した未来の超大容量情報ストレージを作ってみた、というのが冒頭でご紹介した蓄音器型のガジェットです。
もちろんリアルなブラックホールが埋めこまれているわけでもないし、実際ブラックホールの層に音声情報が記録されているわけでもない。ただの思考実験としてのプロトタイプなんですが、そこにはブラックホールの密度に負けないぐらいたくさんの夢が詰まっています。
人類はこれから長い時間をかけて想像も付かないくらい高度な文明を築き上げていくでしょう。ともなれば、かつて相対性理論の応用でGPSが実現したように、いつの間にかブラックホール研究の応用も始まっているはずです。それはブラックホール工学と呼ばれながら社会に広がっていき、いずれ誰かがマイクロブラックホールを使った蓄音機を作るかもしれない……。
そんな夢の具現化である「Black Hole Recorder」を制作したのは「Useless Prototyping Studio(ユースレス・プロトタイピング・スタジオ)」という名のデザインスタジオで、理化学研究所の数理創造プログラム(iTHEMS)、クリエイティブ・ブティック「SCHEMA」、イノベーションデザイン・ブティック「addict」およびにテイラーイノベーションズなどが参画しています。
科学的な「仮説」を出発点に、そこから「空想」の力を働かせてなにかのカタチに「具現」化していく。一見役に立たないプロトタイプをつくるプロセスから、未来につながるインスピレーションを得ることがUseless Prototyping Studioの活動目的なんだそうです。なんだかめちゃくちゃ楽しそうじゃないですか?
役に立たないモノなんてないんじゃない?
アインシュタインの相対性理論だって、提唱された当時はなんの役に立たなかったけど時代がだんだんと追いついていったそうです。それと同じで、今は役に立たないモノだって何年か後にはものすごく有用な使い道が見つかるかもしれません。
そもそもなんの役にも立たなくたって、それはそれでいいじゃない? 科学者とデザイナーという畑違いのプロ集団同士が対話していく中で、横断的な学びや新たなフュージョンがきっと生まれるはずですよね。日本の教育現場が力を入れ始めている「STEAM教育」にも通じるものがあるなと思いました。
科学未来館で「Black Hole Recorder」に会えるよ!
「Black Hole Recorder」はUseless Prototyping Studioの記念すべき第1作目。これからどんな妙ちくりんなプロトタイプが飛び出してくるかと思うと、ワクワクします。
ちなみに「Black Hole Recorder」に搭載された人工ブラックホールのゆらぎを自分の目で確かめたいという方は、ぜひ3月14日(日)から21日(日)のあいだに日本科学未来館へ足をお運びください。期間限定で「Black Hole Recorder」の特別公開を行なうそうですので、詳しくはこちらをご参照あれ。
展示期間中は「Black Hole Recorder」を使って実際に館内の音を録音し続けるそうです。いつか人類がブラックホールに向けて探査機を飛ばしたら、その録音データを本物のブラックホールめがけて投げ込まれる日もくるかもね…?
Useless Prototyping Studio, 理化学研究所
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2021-03-12 14:30:00Z
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