絶対高度3メートル。滞空時間40秒。このふたつの数字が人類史に刻まれることとなりました。
2021年4月19日午前3時46分(東部標準時)、 NASAの小型ヘリコプター「インジェニュイティ(Ingenuity)」が火星での初フライトに成功し、人類初の快挙を成し遂げました。
インジェニュイティの飛行は地球から遠隔操作されたのではなく、あらかじめインジェニュイティに送られていたプログラムコードに従っての自動操縦だったそうです。火星の空へと舞い上がり、さらに難しいタッチダウンも難なくこなしたインジェニュイティの画像が地球に転送されるまでにかかった時間は3時間。火星からのデータを待ちわびながら、技術者たちは一体どんな心持ちだったのでしょうか…。そして、やっと成功の知らせが届いた暁に、NASAのミッションコントロールが喜びに沸き立ったのは言うまでもありません。
NASAのジェット推進研究所ディレクター・Michael Watkinsさんは、同日行われたプレスミーティングにおいてインジェニュイティの快挙をこう表現しています。
インジェニュイティ・プロジェクトに携わるすべての科学者とNASA職員が人類に授けてくれたのは、三つ目の次元です。我々はいま、火星の地表の2次元の世界から永遠に解き放たれたのです。
地球外初の動力飛行
インジェニュイティは「小型ヘリ」というより「大型ドローン」に近いかもしれません。総重量わずか1.8kg、4本の頼りない脚に支えられた本体には、インジェニュイティの司令塔ともいうべきコンピューターが納められています。てっぺんにはタケコプターみたいな回転翼が2組ついており、お互い反対方向に2,500rpm以上の速さで回ることで、地球の1%しかない火星の希薄な大気中でも浮力を生み出します。ちなみに回転翼は超軽量なカーボン製。1組がわずか電球ほどの軽さだそうです。
人類初の動力飛行に成功したのはアメリカのウィルバーとオービル・ライト兄弟でしたが、彼らのフライヤー1号が飛んだ距離は36メートル、滞空時間は12秒でした。そのおよそ4倍も長く火星の空中に留まることができたインジェニュイティが使用した飛行場は、ライト兄弟にちなんで命名されたそうです。しかも、なんとインジェニュイティの回転翼の下にはライト兄弟が使用した飛行機のパーツが仕込まれていたのだとか。先人の偉業を表敬する粋な取り計らいですね。
ところで、インジェニュイティが初フライトに挑戦しているあいだ、火星探査車パーサヴィアランスは近くのVan Zyl Overlookと呼ばれる高台まで移動し、そこからインジェニュイティの姿を撮影していました。と同時に周辺の環境データを収集し、さらにはインジェニュイティと地球のミッションコントロールとをつなぐ大事なノードの役割も果たしたそうです。うん、見事なチームプレイ!
パーサヴィアランスに見守られて
こうしてパーサヴィアランスが歴史的立会人となってくれたからこそ、インジェニュイティの快挙が地球にも伝わってきたのですが、どうやらデータは小出しに送られてきたようです。まずは回転翼が回り始め、やがてテイクオフ、空中でのホバリング、そしてタッチダウン──と順を追って情報が入ってくるたびにNASAのミッションコントロールが沸き立ったのは先述のとおり。
しかし、真のクライマックスはインジェニュイティの高度計データがミッションコントロール室の大画面に映し出された時でした。プロット状に記された高度情報はまっすぐに上昇し、いったん留まってからまた一直線に下降していました。スムーズなフライト、そして見事な着陸。大成功でした。
おもしろいことに、インジェニュイティは下降する際に減速しないんだそうです。地面に向かって降りていくうちに、そのうち物理的なストップがかかって「あ、これより先は進めないんだな」とわかってから初めて停止するそうです。
限界に挑む
今後も徐々に火星からデータが送られてくるにつれて、インジェニュイティの新たな画像や映像が公開される予定だそうです。しかも、それだけじゃありません。インジェニュイティのプロジェクトマネジャー・MiMi Aungさんによれば、インジェニュイティの2回目のフライトは早くて4月22日にも行なわれる予定なのだとか。今度は高度をさらに2メートルほど上げて、水平に2メートルほど移動してからまたもとの位置に戻り、着陸するプログラムとなりそうです。そして2回目の挑戦がうまくいけば、3回目は水平移動を一気に45メートルまで伸ばしていくそうですよ。
「飛行を重ねるごとにもっと高く、もっと遠くまで、もっと速く飛べるかどうか、インジェニュイティの可能性を探っていくことになります」とインジェニュイティの主任パイロットを務めるHåvard Gripさんは話しています。
インジェニュイティはあと4回のフライトに挑戦する予定で、今後2週間のうちにすべてが終了する段取りとなっています。あまりにもロマンに溢れていてつい忘れてしまいがちなのですが、今回の火星探査ミッションにおいてはまだ概念実証実験に過ぎないインジェニュイティは、パーサヴィアランスに比べたら脇役でしかありません。そのパーサヴィアランスには、これからジェゼロクレーター内で生命の痕跡を探すという重大な任務が課されています。ですから、インジェニュイティに残されている時間はあと少ししかないのです。
もちろんインジェニュイティが歴史的快挙であることに相違はありません。5回のフライトを通じて得られるデータは、今後も地球外動力飛行を行なう上で次世代ヘリコプターの設計に大きく影響してくるでしょう。
概念実証であるがために、インジェニュイティはわざと堅強に作られていません。残念ながら、火星の環境下であまり長くはもたないだろうと想定されています。「いずれは限界に到達するでしょう」とAungさんは説明しています。「そして、その限界に到達するまで、わざとハードなフライトを組んでいきます」。
火星までの道のりをパーサヴィアランスに抱かれて旅してきたインジェニュイティ。いまや完全に独立して、そのうちパーサヴィアランスが遠くにかすむ小さな点になってしまうほど遠くまで旅することになるのかもしれません。そのカメラに映し出される異星の光景は、どんなに美しいものになるでしょうか。
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2021-04-21 12:00:00Z
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