ソニーがゲームのサブスクリプションサーヴィスで先手を打った。「PlayStation Now」の料金を半額に値下げし、今後も大物タイトルを追加していくことなどを明らかにしたのだ。グーグルの参入を控えたタイミングでの攻勢の真意とは、いかなるものなのか──。ソニー・インタラクティブエンタテインメント社長兼最高経営責任者(CEO)のジム・ライアンが、『WIRED』US版に語った。
TEXT BY PETER RUBIN
「わたしはいつも、話すよりも行動するほうが好きなんです」と、ジム・ライアンは言う。「でも、自分たちがこれまで何をしてきたかについて、十分に語ってこなかったのは罪深いことであると、わたしは考えています」
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの社長兼最高経営責任者(CEO)であるライアンが語っているのは、ソニーが2014年に開始したゲームのサブスクリプションサーヴィス「PlayStation Now(PS Now)」のことだ。プレイステーションのユーザーは、このサーヴィスによって過去のゲームタイトルをダウンロードしたり、クラウドからストリーミングして楽しんだりできる。
そしてライアンは、これまでにソニーが真剣に取り組んできたことの現状を列挙していった。取り扱うゲームタイトルの数、ゲームパブリッシャーのリスト、そしてサーヴィス提供地域の拡大──。この3月にはついに、ライアンがプレイステーションにとって「極めて重要な中心地」であるという西ヨーロッパ全域へと対象を広げていった。
しかし、サーヴィスが始まった2014年以降に多くの変化が起きた。サーヴァーに関する問題もあり、これについてライアンは「多くの間違いを犯したことで、多くの教訓を得ました」と語る。サーヴィスは不安定で、当初はユーザーが携帯端末やスマートテレビでもゲームをストリーミングできたものの、結局は利用できるのは「PlayStation 4(PS4)」とPCだけになった。
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こうした状況にもかかわらず、PS Nowは年平均40パーセントの成長を続けており、70万ユーザーが計800本のゲームを楽しむために課金しているのだという。それでもライアンは、次のように言う。「このサーヴィスについてユーザーのみなさんが問題視しているポイントが、ふたつあります。それは料金とゲームの質です」
それらすべてが、いまから変わろうとしている。
多くの人気タイトルがPS Nowに追加へ
ソニーは10月1日(米国時間)、PS Nowの料金を半額に値下げすることを発表した。北米での料金は20ドルから9.99ドルになる。ほかの地域でも同様に値下げが行われ、また3カ月や12カ月の利用権についても同様になる[編註:日本では月額2,500円が1,180円になった]。
さらにソニーは、PS Nowに新たに4本のゲームを追加した。「ゴッド・オブ・ウォー」「inFAMOUS Second Son」「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」「グランド・セフト・オートV(GTA V)」である。これらは1月まで利用可能で、その後も多くの「大物タイトル」が追加されるのだという。
これらの新規タイトルのうち3つについてはソニーの作品であるため、今後はストリーミングで楽しむ唯一の方法がPS Nowということになるだろう。このうちGTA Vについては話が違ってくる。ロックスター・ゲームスはソニーと排他的な契約を結んでいないからだ。ところがライアンは「自分の知る限り」では、GTA Vがストリーミングできるのは今後もPS Nowのみになるのだと言う。
エレクトロニック・アーツ(EA)やユービーアイソフトといったパブリッシャーは、すでに独自のサブスクリプションサーヴィスを開始している。その一方で、サブスクリプションについての曖昧な姿勢を示してきた数少ない企業のひとつが、ロックスターの親会社であるテイクツー・インタラクティブである。
ロックスターにとって最近のGTA Vのオンラインモードの大規模アップデートは、ソニーと交渉するうえでのテイクツーによる動機づけとなった(これはソニーにとっての好機でもあった)。ライアンは「条件について公表するのは差し控えますが、ロックスターにとってよい条件だったとだけ言っておましょう」と語っている。
クラウドはゲーム機の脅威にならない
このタイミングでソニーがPS Nowをテコ入れした理由は明らかだろう。グーグルによるゲームのサブスクリプションサーヴィス「Google Stadia」の開始を11月に控えており、マイクロソフトの「Project xCloud」のパブリックプレヴュー版が今月から始まるからだ。クラウドゲームの世界は、いままさに進化の新たな段階に入ろうとしている。
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「ソニーは競合に先んじられていないという印象を確実に与えたいのです」と、調査会社であるDFCインテリジェンスのCEO、デイヴィッド・コールは説明する。「わたしはゲーム業界にそれほど詳しくない投資家たちと話す機会がありますが、投資家たちはグーグルのことを大きな潜在的脅威であると受け止めています。これでソニーは価格面だけでなく、コンテンツ面で優位に立っているとも堂々と言えるわけです」
Stadiaのサーヴィス開始を控えているにもかかわらず、コールはクラウドゲーミングが従来のゲーム機のビジネスにとって脅威になることは決してないと言う。技術的な理由だけではない。ゲームストリーミングサーヴィスは、まだビジネスモデルが十分に確立していないからだ。こうした事情もあって、「サードパーティーのパブリッシャーは、かなり慎重な姿勢を示しています」と、コールは指摘する。
だが、PS Nowには70万人のユーザーだけでなく、いくつもの明らかな強みがあるのだとコールは言う。そのひとつが、ゲームをダウンロードして楽しめる点だ。これによって、遠隔地にあるサーヴァーのゲームで遊ぶ際に発生しうる遅延の問題を回避できる。
さらに重要なのは、PS Nowが既存のゲーム機の代替ではなく、追加機能の扱いになる点だろう。「ソニーはゲームの完全なエコシステムをもっています」と、コールは言う。「ゲームのハードウェアを購入したとしましょう。そこにストリーミング機能があれば、ゲーム機の前にいないときや手元にノートPCがあるときでもゲームで遊べるわけです。ハードウェアがない単体のストリーミングサーヴィスは売り上げの面で苦戦することになるでしょうね」
先手を打ち続けるソニー
だからといって、PS Nowの先行きが万全というわけではない。
マイクロソフトのProject xCloudも表向きは、Xboxのユーザーがタブレット端末やスマートフォンで遊べるための追加機能を提供していくことになる。それでもPS Nowは、クラウドゲームへの参入ラッシュが与える印象ほど、こうした事態を恐れる必要はないだろう。
だが、ソニーが双方向のエンターテインメントをこれまで以上に全社的な収益面での牽引役と位置づけるにつれ、その強さを示していく必要が出てくる。「ソニーの株価をゲーム事業が左右することなんて、これまではありませんでした」と、コールは言う。「いまやゲーム事業は、ソニーにとって最も収益性の高い事業のひとつなのです」
こうして「成長」が“魔法の言葉”のようになっている。そして、ソニーが現行世代のゲーム機で悠々と勝利を収めているにもかかわらず、PS Nowのほかにもソニーが手を打っている理由でもある。
ソニーは明確には情報を発表してはいないが、PS4のクロスプレイ[編註:機種をまたいで同じゲームを楽しめる機能]に関する取り組みはベータ版の段階を終えている。つまり、ゲーム側でクロスプレイに対応しさえすれば、PS4でクロスプレイを楽しめるということだ。
今月発売の「Call of Duty: Modern Warfare」が、リリース時からクロスプレイを楽しめる最初のメジャータイトルになるかもしれない。だが、クロスプレイに対応するのは、この1本だけではないはずだ。
「現行プラットフォームが次に勝利を収めるうえで必要な実績は、そこまで大きなものではありません」と、ソニーのライアンは言う。「ですから、わたしは経営者としてのエネルギーの大半を、自己満足を避けるために費やしているのです」
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https://wired.jp/2019/10/02/playstation-now-updates/
2019-10-02 10:00:00Z
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