Epic Gamesが提供している人気ゲーム「Fortnite」(フォートナイト)が、規約違反によりAppleのアプリストア「App Store」、Googleの「Google Play」から8月13日(米国時間)に削除された。Epic Gamesが独自の課金システムを導入したところ、AppleとGoogleへの手数料の支払い(課金額の30%)を回避する仕組みと判断されたようだ。
ITmediaのいくつかの記事で伝えられている通り、AndroidアプリはEpic Games自身のサイトからダウンロード可能だが、iOSアプリはAppStoreを通じてのみしかアプリを取得できない。そのためAppleのデバイスでは現在、新たに同ゲームをダウンロードできない状態となっている。
これを受け、Epic Gamesはすぐに両社を独占的地位の濫用(らんよう)で訴え、3億5000万を超えるFortniteユーザーに対し“支配からの解放”を求めて立ち上がるよう呼び掛けて話題になった。
週が明けて17日(米国時間)になると、話はさらに拗れていた。筆者がSNSで最初に目にした情報は「AppleがEpic GamesをiOSとMacの開発コミュニティーから追放。Epic Gamesが無償で提供し、多くのゲームが活用しているライブラリ『Unreal Engine』がiOSとMacでメンテナンス不能となり、Appleのデバイスではゲームが遊べなくなる」という違和感を覚える内容だった。
しかし、この“違和感”こそが今回の騒動における本質なのかもしれない。
iOSユーザーを人質にしている?
情報の発信源はすぐに見えてきた。Epic GamesのTwitterアカウントによると、Appleから「開発者向けライセンスの規約違反となっている現状を改めなければ、8月28日に開発者アカウントを凍結する」と通告されたという。
Unreal Engineは品質の高さや扱いやすさで評価が高い上、Epic Gamesが無償化したことで業界標準として定着したゲーム開発用ライブラリセットだ。これを用いて開発されているゲームは数多い。
Epic Gamesの開発者アカウントが凍結されれば、Unreal Engineの開発を継続できなくなり、結果的にiOS/macOS向けに提供されているUnreal Engineを用いたゲームの開発に大きな影響を及ぼすと、Epic Gamesは主張。米連邦地裁に対し、Appleを独占的地位の濫用で訴えた先の訴訟に対する報復措置だとして、アカウント凍結の取り下げを申し立てた。
つまり、Appleが報復として自社プラットフォームからEpic Gamesを追放し、それがFortniteだけではなく、より幅広くUnreal Engineを用いたゲームに広がり、ゲームコミュニティーにダメージを与えると訴えている。
Epic Gamesからすると、Appleという強大な敵が、これまでユーザーが支払っていた料金の3割を召し上げていただけではなく、そのビジネスモデルに異議を唱えたら、今度は支配力を行使し、Fortnite以外のゲームにも及ぼすパワーを使って“つぶしに来た”。到底承服はできないので徹底抗戦するぞ、というわけだ。
この情報が伝言ゲームのように広がり、さまざまな解釈のもとに拡大していく中で「AppleがUnreal EngineごとEpic Gamesを自社プラットフォームから排除しようとしている」という文脈へと変化していったのだろう。
その背景には、Epic Gamesが今回の行動を正当化し、Fortniteファンたちに協力と理解を求めたことがある。アプリがストアから削除された13日、同社はジョージ・オーウェルの小説「1984」を元にしたAppleの伝説的なCMを皮肉り、ビッグ・ブラザー(Apple)の支配から解放されるための戦いに自分たちは挑んでいく──というパロディー動画を公開し、話題を呼んだ。
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用意周到だったEpic Gamesの戦略
もっとも、一連の流れはあらかじめEpic Gamesが想定していた通りと推察される。独自の課金システムを準備し、ユーザーが割引価格でゲームアイテムを購入できるようにしたことで、Fortniteはストアから削除された。禁止事項にあたることはEpic Gamesも承知しており、即座に削除されることは分かっていた上でストアに登録している。
13日に削除されると、すぐにAppleからゲームコミュニティーの住人を解放する抵抗運動を始めると発表。動画は前述したようにパロディーだが、Appleを批判するための理論武装を強化する資料まで用意していた。
そして同日中に司法の場に提訴。この実にスピーディーな展開は、削除から提訴までのシナリオをあらかじめ描いていたからと考えるのが自然だ。
Appleの開発者アカウントは、登録することで次期OSの開発者版を入手でき、開発ツールや情報にもアクセスできる。Epic Gamesはこれらにアクセスできなくなると、Unreal Engineを最新の環境に対応できなくなると訴えているわけだ。契約違反状態が続いたアカウントが凍結されたことは過去にもあり、Epic Gamesとしても予想していたに違いない。
AppleがEpic Gamesに送った警告は「Apple Program License Agreementの違反を是正し、引き続きプログラムに参加していただけることを願っている」というもので、期限までに契約違反を正せばアカウント凍結は行わない。
Epic Gamesは「報復行為」と主張するが、以前から存在していた規約に違反した状態が続くアカウントを凍結することを報復とはいわない。あらかじめ合意していたルールに違反しているのはEpic Gamesだからだ。
彼らはこうした展開になることを予想した上で、世論を巻き込む戦略を練っていたのではないだろうか。というのも、同じようにストアから削除したGoogleに対して提訴はしたものの、パロディー動画などは用意していない。
“解放戦線”で世論を味方につけるための仮想敵として、Appleを際立たせたかったのではないだろうか。
そもそもAppleが自社プラットフォーム向けUnreal Engineの開発を滞らせる理由がない。App Storeに登録されているゲームはもちろん、定額ゲーミングサービス「Apple Arcade」に登録されているアプリにもUnreal Engine採用ゲームは少なくない。
自社プラットフォーム向けのゲーム開発に貢献しているライブラリの開発を制限する理由などない。Appleが「違反を是正し、引き続きプログラムに参加していただけることを願っている」と応じているのは、そのためだ。
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視点で異なる全体の景色
この問題は視点によって見える景色が変化する。Epic Gamesが訴える「Apple/Googleが設定するアプリ内課金の手数料が高すぎる」「独自の決済手段によるアプリ内課金を認めないというAppleのルールは優越性の濫用」という視点だけを見れば、強引ではあるものの納得できないこともない。
このゲームのファンがプロパガンダ映像を観た上で、Appleがただデジタルデータを配信するだけで価格の3割を持っていくのは不当だ。もし自分たちの主張が認められれば、ゲーム内アイテムを安価に買えると主張し、実際に2割お得な価格設定を提示したとすれば、Appleを仮想敵と見立てるプレーヤーも出てくるだろう。
その上、Fortniteとは本来無関係なはずの他社のUnreal Engine採用ゲームにまで影響を及ぼす処分を下すなら、それこそAppleの横暴である。Epic Gamesの描いたシナリオ通りの景色がプレーヤーに見えていても不思議ではない。
しかし問題をApple/Googleによるアプリ削除、Appleによる開発者アカウント凍結警告に絞るならば、Epic Gamesは2018年からずっと従前の条件でFortniteを配信してきた。つまり、Appleとの契約を承服してきたことになる。
もちろん、Appleが求める契約が著しく不公平で自らの立場を利用して対応を強制していると判断されるなら、契約の有効・無効に関してEipic Gamesにも主張を争う余地があるかもしれない。Epic Gamesは、AppleのみがiOSアプリの配信権を持つ強制力によって、3割の高率な手数料が必要になると主張する。
ところが、本当に3割というマージンが高率なのかといえば、実はソニー、Microsoft、任天堂の“ゲーム機御三家”も3割。さらにはPCゲーミングで標準となっているSteamも(売り上げ条件で変化するが基本は)3割だ。
ここまで全体を把握すれば、Epic Gamesの意図が見えてくる。Appleが開発者向けの利用規約を見直してしまうと、ストアに登録する全ての開発者に影響を与えてしまうため、到底、承服できない。言い換えれば、それが分かっているからこそ、(規定通りの)開発者アカウント停止までのストーリーで、3億5000万登録ユーザーのバックアップを求める作戦に出たのだろう。
Unreal Engineを人質に、AppleがEpic Gamesに圧力をかけているように見えるが、人質に取っているのはAppleではなく、Unreal Engineを闘争のシンボルとしてFortniteプレーヤーやUnreal Engineを採用するゲーム(あるいはそのファン)をたきつけているEpic Gamesというのが筆者の見方だ。
Fortniteがプレイされているのは主にPCと各種ゲーム専用機で、モバイルユーザーはごくわずかにすぎない。Epic Gamesとしては、ここで一つ大きなノイズを作り、議論を深めた上でデジタルコンテンツの手数料についての共通認識を変えていきたいと考えているのかもしれない。
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それでも、Epic Gamesの戦いに正義はあるのか?
もっとも「問題はそこではない」と主張したいゲームファンもいるだろう。
アプリの販売ならばまだしも、単なるデジタルデータをゲームにダウンロードさせるだけならば、コストは本当にわずかな金額にしかならない。追加アイテムは配信時にかかるデータ量も少ないため、プラットフォーム側にはほとんどコストが掛からない。それにもかかわらず、一般的なクレジットカード手数料の10倍近いマージンを取り続けるのは不当ではないのか。
しかしながら、Fortniteのような無料で遊べるゲームの場合、追加アイテムなどの売り上げが計上できなくなると、配信プラットフォーム側への収入がゼロになってしまう。通常の買い切り型アプリとの公平性を考えるならば、追加で発生したコストも含めて統一せねばならない。
もっとも、App Store、Google Playともにそのビジネスモデルはメガヒットゲームを基準に作られているわけではない。Fortniteのような最大級のヒット作と、数百円で月に数100本売れる規模のアプリを同列に扱っている部分に、交渉の余地はあるかもしれない。
アプリ調査会社のSensorTowerによると、iPhone向けFortniteは今年7月だけで新たに200万件もダウンロードされ、3400万ドルの売り上げが計上されていた。売り上げが多い月は4000万ドルを超えることもある。仮に4000万ドルならば、1200万ドルがAppleの収入になる。
こうして実際の数字になれば、予想以上の金額になると感じる方もいるかもしれない。あるいはこうしてプレーヤーたちの注目を集めた上で、手数料の妥当性に関する議論に参加してほしいというのが、彼らの本音だろうか。
結末は見えていないが、今回の手法では日本の人口の3倍以上となる3億5000万人を超えるFortniteファンを味方につけるのは難しいのではないか。
すでに注目は集めたのだから、Epic Gamesは次のステップへと踏み出すだろう。舞台は法廷へと進む可能性が高そうだが、オープンな場での議論へとAppleとGoogleを引っ張り出して証言を引き出せれば、そこには業界共通の利益となる道筋が見えてくるかもしれない。
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2020-08-19 07:00:00Z
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