想定外で予想外で規格外──。溝部拓郎が代表を務めるポケットペアは、常にゲームコミュニティが考えるゲームのあり方を超えるゲームをつくり、好評を得てきた。リアルタイムとターンベースという2種のストラテジーゲームが融合した『Overdungeon(オーバーダンジョン)』。サバイバルとアドベンチャー、クラフトと流行のゲームデザインをありったけ放り込んだ『Craftopia(クラフトピア)』。現在同社が開発中の、個性豊かなモンスターと冒険する『パルワールド / Palworld』もいずれそうなるだろう。
数ある独立系開発スタジオのなかでも、大胆な模倣と融合によって作品をつくり続けるポケットベアが目指すところは何か。外資系金融機関でのシステム開発から、暗号資産取引所「Coincheck」の共同創設、そしてゲーム開発スタジオの創業という異例の経歴をもつ溝部に、彼がゲームづくりで大切にしている理念を訊いた。
必ずしも独自性にはこだわらない
──溝部さんはもともとゲーム関連の仕事をしていたわけではなく、新卒後は外資系金融機関でシステム開発をされていたと聞いています。どのような経緯でゲームをつくることになったのでしょうか?
もともとゲーム開発に興味はありました。初めてゲームをつくったのは大学3年のころで、任天堂が主催していた「任天堂ゲームセミナー」に参加したときです。確かその年は1チーム9人で4チーム、合計36人が参加していたと思いますが、そこでニンテンドーDS用のゲーム開発に挑戦しました。ただ率直に言うと、そのときは「いま自分がやりたいのはゲームづくりではない」と思ったんですね。
──それはなぜでしょうか?
ゲームづくりが大変すぎて、正直割に合わないと思ったからです。また、任天堂の文化も大好きだったのですが、自分にはあまりマッチしていないように感じました。そういう理由もあり、卒業後はJPモルガンに就職したのですが、素晴らしい会社で待遇もよかったものの、仕事内容は技術的に面白いものではなかったんです。そこで仕事の合間に、ほかの社員と一緒にウェブサービスをつくり始めました。人生の物語を投稿する「STORYS.JP」というウェブサイトをつくったり、ビットコインの流れに乗って暗号資産取引所の「Coincheck」を創設したりしましたね。ただ、そうしてウェブサービスをつくっているうちに、次第に「やっぱりゲームもつくりたい」という気持ちが湧いてきたんです。それなら自分で会社をつくろうと、現在のポケットベアを創業しました。
──「任天堂の文化が合わなかった」というお話がありましたが、どういう点が合わないと感じたのでしょうか?
もともと任天堂のゲームは大好きで、それはいまも変わりません。深く尊敬もしています。ただゲームのつくり方として、任天堂は新しい作品、独自性のある作品を高い品質でしっかりつくろうという哲学が強く、任天堂ゲームセミナーでもそこが問われました。一方、わたしは自分の作品をひとりでも多くの人に楽しんでもらいたいという気持ちが根底にあって、そのために世の中によいアイデアがあればそれを拾うし、必ずしも独自性にこだわらなくてもいいと考えているんです。もっと適当でよいというか、気楽につくりたい。流行りものに安直に飛びつくような、そういうつくり方もよいじゃないかと(笑)
“マッシュアップ”でゲームをつくる
──「よいアイデアがあれば拾えばいい」という考えは、ウェブサービスの世界でも一般的であるように感じます。
そうですね。ウェブサービスの世界では模倣は日常茶飯事で、例えばグーグルが運営していたGoogle+のサークル機能をFacebookはあっさりコピーしました。ほかにも、InstagramがSnapchatからストーリー機能を模倣したり、TwitterがClubhouseの音声機能を模倣し、スペース機能を開発したり、世界的な大企業がお互いにコピーし合ったりしているのがウェブサービスの世界です。そもそもわたしが立ち上げた「STORYS.JP」も、結果的には別物になったものの、原点は「日本版のLinkedInをつくる」という動機でした。それは、ゲームの世界も同じだとわたしは考えています。多くの格闘ゲームは『ストリートファイターII』のUIを踏襲していますし、カードゲームも『ハースストーン』の影響を受けたものが多いです。インディーゲームで著名な作品は特に、過去の名作に強く影響を受けていることも多いですよね。文化は模倣によって発展していくものだと、わたしは思っています。
──ポケットベア最初の作品である『Overdungeon』も『Craftopia』も、ゲーマーであれば元ネタにピンと来る作品ですよね。
『Overdungeon』は、『Slay the Spire』と『クラッシュ・ロワイヤル』というふたつのカードゲームを融合すれば面白いゲームになるんじゃないかと思って開発した作品でした。でも、実際にやってみるとバランスがうまくとれなかったりして、ゲームの融合は思ったよりもはるかに難しく、うまくいかないものなのだと感じましたね。その一方で、複数の作品を模倣するとユニークなものができるという発見もありました。音楽でいう「マッシュアップ」に近い感覚です。そこで次に開発した『Craftopia』では開き直って、自分たちが面白いと思うゲームのエッセンスをありったけ入れてみることにしました。
──たった2作品のマッシュアップも難航したにもかかわらず、さらに増やしたと。
はい(笑)。ベースとして『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を参考にしつつ、『Minecraft』のクラフト要素だったり、恐竜サバイバルアクション『ARK: Survival Evolved』の畜産要素だったり、面白いと思う要素を入れるだけ入れました。当然バグがたくさん起きたり、ゲームとして破綻したりしちゃうわけですが、それが面白いと思えたし、スタッフにも「自分が責任とるからどんどんやってよ」と言っていました。これはインディペンデントな立場だからこそできることですね。
──まるでテック系のスタートアップのような大胆なゲームづくりですね。
少なくともわたしのなかには、スタートアップのようなカルチャーはあるかもしれません。とりあえずつくって、マーケットに合うかをチェックして、合わないようならすぐに捨てるという発想もそうです。
例えば、ポケットペアではゲームをつくる前に開発中の動画を公開し、その反響を見て開発にも役立てるという開発の仕方をしています。これは一般的なゲーム開発ではまずしない手法ですが、実はハイパーカジュアルゲーム(ユーザーの性別、年齢、国を問わず遊べるシンプルなスマートフォン向けゲーム。ゲーム内広告によってマネタイズしている)であれば一般的な手法なんです。こうして自分が開発しているものとは違うジャンルのゲームやゲーム以外の業界の手法を積極的に取り入れながら開発を進めています。もちろん自分がやりたいことを詰め込むのも大切ですが、マーケティングとリサーチによってそれが成り立つようにしているんです。
プレイヤーがもっと自由に遊べるように
──プレイヤーのコミュニティを見ても、『Craftopia』の「破綻」が笑いを生んだり、プレイヤーがその破綻から着想を得て新しいアイデアを生み出したりしていましたよね。
本来ゲームはプレイヤーがもっと自由に遊んでいいものだと思うんです。ゲームの遊び方をユーザー側が解釈したり、「MOD」のようにユーザーが独自にゲームを改造したりしてもいい。わたしはその立場を支持するゲームづくりをしています。わたし自身、『グランド・セフト・オート』シリーズでパラメータを改造して遊ぶなど好き勝手していたので。
──『Craftopia』のなかで、特にこれは入れてみて正解だったと思う要素はどのようなものでしょうか?
成功というより、自分がどうしても入れたかった要素が「エンチャント」ですね。これは「ハック&スラッシュ」と呼ばれるジャンルにありがちな要素で、武器や防具などのアイテムにランダムな付加価値がつくというものですが、『Craftopia』では武器や防具になる前の素材からこのエンチャントが付与されています。つまり、素材を組み合わせるごとにエンチャントの組み合わせも増えていくというもので、たまに思いもよらないアイテムが完成するときがあるんです。「エンチャント」自体はありふれたアイデアですが、これを素材から適用する発想はほかにあまりないと思っているので、いちばん気に入っています。
“きれいすぎない”ゲームを
──新作『パルワールド / Palworld』についてですが、こちらも無数のアイデアが詰まった作品になりそうですね。
ゲームそのもののベースは『Craftopia』に似ています。オープンワールドで広い世界を冒険しつつ、クラフトして、サバイバルするという点は同じです。ただ、そこに『パルワールド / Palworld』では「パル」という不思議な生き物がいて、捕まえることができます。そして、このパルをどう使うかはプレイヤーの自由です。一緒に冒険するのもいいし、工場で働かせることまでできる。そこが大きな違いですね。
もともと『Craftopia』にもペットの概念は存在したのですが、これが考えていた以上に面白かったことと、そうしたペットを労働させられたらもっと面白そうだったことが『パルワールド / Palworld』を開発したきっかけでした。そして『グランド・セフト・オート』のような現実に近い世界観を加えたらどうなってしまうんだろうと気になったのが発端で、気付いたらここまでつくっていました。
──トレイラーを見る限り、かわいらしい世界観とミスマッチしたブラックな要素もちらほらありました。例えば、パルを工場で働かせたり、銃を撃ったりするシーンが印象に残っています。
もともと“きれいすぎる”世界観があまり好きではありません。世界には美しい部分も醜い部分もあり、矛盾に満ちている。それらを隠さず描くのが好きです。パルがもし現実にいたとすれば、かわいいペットとしての役割だけではきっとすまされず、人類はパルを家畜化し、労働させ、戦争に駆り出すでしょう。変なフィルターをかけずに、パルがいたらどのような世界になるかを自然に考えたのがパルワールドです。ただし、プレイヤーが望めば、もちろん正義の味方にもなれますよ!
(雑誌『WIRED』日本版VOL.46より加筆して転載)
※『WIRED』によるゲームの関連記事はこちら。
雑誌『WIRED』日本版Vol.46
「GAMING THE MULTIVERSE:拡張するゲームと世界」好評発売中!!
『WIRED』日本版、10年ぶりのゲーム特集──。この世界では今日も30億人のプレイヤーたちがゲームパッドやVRコントローラーを夢中で握りしめている。AIという“知性”を獲得したゲーム内世界は「リアルとは何か」の再考を迫り、XRが3次元の制約を超えた没入体験を実現し、オープンワールドを埋め尽くす無限のストーリーがわたしたちの人生を紡いでいるのだ。いまやゲームエンジンによって物理社会をもその領域に取り込み、マルチバース(多次元世界)へと拡張していくゲームのすべてを総力特集。ただいま全国の書店などで絶賛発売中!詳細はこちら
https://news.google.com/__i/rss/rd/articles/CBMiSWh0dHBzOi8vd2lyZWQuanAvYXJ0aWNsZS93aHktc3RheS1pbmRlcGVuZGVudC01LXBvY2tldHBhaXItdGFrdXJvLW1pem9iZS_SAQA?oc=5
2022-11-20 08:07:27Z
CBMiSWh0dHBzOi8vd2lyZWQuanAvYXJ0aWNsZS93aHktc3RheS1pbmRlcGVuZGVudC01LXBvY2tldHBhaXItdGFrdXJvLW1pem9iZS_SAQA
Tidak ada komentar:
Posting Komentar