世界的に外出が難しくなったこの数ヶ月、オンラインゲームでは多くの出来事があった。『マインクラフト』では卒業式が開かれ、『ファイナルファンタジーXIV』で葬儀が行われ、そして『あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)』では結婚式が行われた。したがって次のようなニュースを聞いても、もはやユーザーはさほど驚かないのかもしれない。アメリカのとある美術館が、『あつ森』を使ってバーチャルに美術品を鑑賞できるようにしたのだ。プレイヤーはマイデザインをダウンロードすることで、ロサンジェルスにあるJ・ポール・ゲッティ美術館の所蔵するコレクションを自分の島に飾ることができる。
さまざまな文化活動がオンライン化する流れにあって、ゲッティ美術館の取り組みもそのひとつと捉えるのが自然な見方ともいえるだろう。ところが同美術館は、それだけにとどまらない機能を実現した。ゲッティのWebページにあるツールを使用すれば、ロサンジェルスにあるコレクションどころか、全世界にある美術館の所蔵品をマイデザイン化できてしまうのである。
はじめにシステムの基本的な使い方を説明しよう。まずは、ゲッティ美術館が用意した“Animal Crossing Art Generator”にアクセスする。“Step 1”と書かれた部分から好きな絵画を選択。検索欄から特定の作品を探し出すこともできるが、はじめは美術館が用意した「おすすめ」一覧から選んでみるといい。モネやゴッホなど、見覚えのある作家の絵が見つかるはずだ。選択したら、“Step 2”のウィンドウでマイデザインとして切り取りたい範囲を指定する。すると、その右にある“Step 3”の欄で自動的に絵画をドット絵化したデザインと、ダウンロード用のQRコードが生成されるはずだ。あとは通常のマイデザイン入手と同様、現実のスマホアプリを通してゲーム内のスマホにデザインをインストールするだけ。
今回の美術品マイデザイン化システムは、もともとネット上でオープンソースとして公開されていた“Animal Crossing Pattern Tool”を基盤としたもの。すでに存在していた「画像をドット絵化し、QRコードを生成する」という技術に加え、美術館の所蔵するデータを紐づけたのが今回のツールというわけだ。ゲッティ美術館のコレクションだけで7万点以上もの作品を鑑賞可能なのだから、それだけでも凄まじい。ところがAnimal Crossing Art Generatorはさらなるポテンシャルを秘めている。この機能を使うことで、世界各国の名だたる美術品を『あつ森』に取り入れることが可能なのだ。この仕組みを説明するために、少々遠回りして近年のデジタル美術品事情を説明したい。
「IIIF」という言葉に耳なじみのある人はそうそういないだろう。これは近年、世界中の美術館や図書館が採用しつつあるデジタル上の仕組みだ。たとえば著名な大学図書館のサイトを閲覧しているとき、「デジタル・アーカイブス」というページを見かけることがある。これは図書館が所蔵している資料を電子化し、無償でオンライン上に公開しているデータベースだ。日本でも国立国会図書館デジタルコレクションをはじめ、多くの研究機関が貴重な資料を公開している。わざわざ巨大な書庫に出向かなくとも日本中・世界中の資料を閲覧できるため、こうした電子資料室は多くの研究者や学生に利用されている。
ところがオンライン時代の恩恵ともいえるこの仕組みは、長らく抱えてきた問題があった。どの大学や研究機関も独立してデータベースを構築しているため、どこの資料もファイル形式がバラバラで、操作方法も各自でいちいち覚え直さなくてはいけなかったのだ。膨大な数の資料を同時に見比べなくてはならない学者にとって、この手間は「ちょっと面倒」では済まされない死活問題だった。これを解決するために国際的な研究機関どうしが協力し始めたのがIIIFの始まりだ。すべてのデータ形式を共通化することで、あらゆる資料を一括で管理できるようになった。簡単にいえば、ひとつのアプリさえ使えばハーバード大学の資料も、ケンブリッジ大学の資料も、ナショナル・ギャラリーの絵画も見ることが可能というわけだ。
そしてすべてのデータが同じ形式になっているということは、同じツールに突っ込むことも可能ということ。ゲッティ美術館のAnimal Crossing Art GeneratorはIIIFを利用することで、世界中の美術品や資料をマイデザイン化することを可能にしているわけだ。ただし利用するには少々コツが必要。IIIFに参加しているアーカイブスには、「マニフェスト(manifest)」と呼ばれるURLが記載されている。適切なマニフェストを探し当ててコピーできればマイデザインを生成することが可能だ。Polygon誌の記者はナショナル・ポートレート・ギャラリーに所蔵されているバラク・オバマ元大統領の画像をデザイン化することに成功している。
当然、日本でも名だたる研究機関がIIIFに参加している。ただし国内ではまだ発展途上の印象が強く、マニフェストの膨大なソースコードからデザインに必要なURLを探し当てるのはなかなか困難だ。今後デジタル・アーカイブスはさらに洗練されていくはずなので、将来的な展開に期待しよう。
バーチャル・美術館体験にとどまらず、世界中の知の集積を『あつ森』内に取り込んでみせたゲッティ美術館の取り組み。新型コロナウイルスによる、ゲームとアカデミーの思わぬ幸せな出会いといえるだろう。今後も意外な発明がもたらされるであろうオンラインの世界に期待を寄せたいところだ。
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2020-04-17 20:18:00Z
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