Kamis, 25 Juni 2020

未知の素粒子アクシオンの兆候が観測されたってニュース、なんか大事なの? - ギズモード・ジャパン

イタリアのど真ん中に位置するグランサッソ山。その下には世界最大規模の地下研究所が姿を潜めています。

グランサッソ国立研究所には「XENON(ゼノン)1T」というダークマターを検知するための巨大な実験装置があり、3.2トンもの液体キセノンで満たされています。宇宙から飛来する物質がキセノンの原子核や電子とぶつかると小さな光を発する仕組みを利用して、本来ならば目で見ることのできない未知の素粒子を探しています

はたして観測データを分析したところ、どうもあやしい!という結果が出ました。でも科学者の早合点はご法度。まずは疑ってかかり、ただのノイズでは?データのゆらぎでは?まったくの誤解では?…と、あらゆる可能性を考えて、一年以上かけてデータをなんども見直したそうなのですが…。

やっぱりあやしすぎる。ということで、否定しきれなかった大発見の可能性に一縷の望みを託し、国際実験チーム「ゼノン」がこのほど未知の素粒子を捉えた可能性がある(かもしれない)と発表しました。

ここまでは、ニュースとかでもう見たよ~という方も多いのでは。

でも、未知の素粒子が観測できると一体なにがすごいんでしょう?

そもそも素粒子ってなに?

雨つぶ、花びら、ダイアモンド。わたしたちの世界にある物質を粉々に砕いていくと、いずれそれ以上砕いたらその物質の性質を失ってしまう限界の細かさにたどり着きます。その限界の細かさの粒が原子である、と長く考えられてきました。

しかし、20世紀に入ってから原子は原子核と電子のセットになっていることがわかり、さらに原子核は陽子と中性子が合わさってできていることがわかりました。

そして1960年代に入って加速器技術が発展してくると、今度は原子よりもさらに細かい「クォーク」が発見されました。これが人類が発見した最初の素粒子です。

素粒子は、正真正銘、物質の限界の細かさの粒です。今のところ17種類あることがわかっていて、その性質によって大きく3つのグループに分けられています。陽子や中性子は3つのクォークが合わさってできていて、バリオン(重粒子)とも呼ばれます。電子は「レプトン」という物質を構成する素粒子に分類され、陽子の2000分の1の質量しか持たないので、物質の質量は主にバリオンのみで見積もられています。

ふつうじゃない「暗黒物質」

ところが、宇宙全体を見てみるとバリオンが占める質量の割合はたったの5%。人間が「ああ、これはモノだ」と認識できる「ふつうの物質」は、宇宙の割合でいったらほんのちょっぴりしかありません。

「ふつうじゃない物質」の質量のほうがはるかに多く、宇宙の27%を占めていると考えられていますが、電磁波を一切発していないので人間には直接感知しようがありません。わかっているのは質量を持っていること、そして重力を及ぼしていること、それだけ。謎だらけなので、「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれています。

銀河バブル

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Image: Shutterstock

なぜ見えもしない暗黒物質が存在していると言いきれるのか。その点は、宇宙の観測からいくつもヒントが見つかっています。

一番壮大な例から。宇宙を10億光年のスパンで見渡すと、宇宙の物質の分布にはムラがあることがわかってきました。銀河同士がクラスターを作って銀河群、銀河団、さらには超銀河団を形成して、まるで泡の集まりのようなかたちをしているので「宇宙の泡構造」と呼ばれています。

宇宙のX線写真。暗い空間がボイド。
Image: James Wadsley (McMaster U.) et al. via NASA

泡の膜が交わる所には銀河が密集していて、膜の内側には銀河がほとんどない「ボイド(虚空)」が広がっています。この不思議な泡構造は、ダークマターの重力によって支えられていると考えられています。

もっと身近な例では、天の川銀河の外側にある星は、中心部にある星と同じスピードで回転している現象も観測されています。ふつう、太陽系のように中心部のほうが外側よりも早く回りますよね?これも、ダークマターが外側の星に及ぼしている重力のせいなんじゃないかと考えられています。

未知の物質はそこらじゅうに

ほかにも、ダークマターの重力なしでは説明がつかないことが宇宙で多く観測されているのに、ダークマターが実際なんなのかはまるでわかっていません。

まだ発見されていない素粒子なんじゃないか?とか、新しいタイプのニュートリノなんじゃないか?とか、いろいろと憶測されていて、解明されたらそれこそノーベル賞ものです。だって、バリオンよりもずっとたくさんあるはずの素粒子で構成されているはずなのに、いまだにひとつも見つかっていないことのほうが不思議といえば不思議ですよね。

想定外の観測結果

ということで、回りくどくなりましたが、イタリアのグランサッソ国立研究所に話を戻しましょう。

XENON1T実験は2016年に始まり、2018年まで観測が続けられました。これまでの実験データからはダークマターについてなにも手がかりを得られていなかったんですが、2017年2月から2018年2月にかけてのデータに限っては、ちょっと興味深いことが起こっていました。

その期間中には、キセノンの電子との低エネルギー衝突が想定以上に多く観測されました。その数、285回。素粒子物理学の標準理論によって予測される232回を上回っていました。

この想定外の結果を受けて、実験チーム「ゼノン」のメンバーであるLaura Baudisさん(チューリッヒ大学)は、とにかく頭を抱えて悩みまくったと米Gizmodoに話しています。チューリッヒ大学の同僚・Michelle Gallowayさん、シカゴ大学のEvan Shockleyさん、そしてカリフォルニア大学サンディエゴ校のJingqiang Yeさんも、夜遅くまで分析に励んであらゆる可能性を考えてみたのだとか。

そして、この想定外の観測結果を説明するために科学者たちがたどり着いたシナリオは以下の3つでした。

  1. もしかしたら、理論上の素粒子「アクシオン」が検出されたのではないか。
  2. それとも、ニュートリノの磁気モーメントと呼ばれる性質が、想定よりも高いのではないか。
  3. はたまた、トリチウム(三重水素)という水素の放射性同位体のβ崩壊がノイズとして干渉してしまっただけなのでは。

未知の素粒子、アクシオン

アクシオンは、もともと「強い相互作用のCP問題」と呼ばれる素粒子物理学の矛盾を解くために考案された理論上の素粒子ですが、ダークマターの有力候補として挙げられています。

ほとんど質量を持たず、ほかの物質とほとんど関わりを持たず、今のところ未発見だけど宇宙にはたくさん存在しているはず、と仮定されています。そして、もしアクシオンが存在していたなら太陽の中心核で作られているはずで、地球でも観測可能だと言われてきました。

実証の壁

Baudisさんによれば、もし太陽から飛来したアクシオンが「XENON1T」の検出器を通過したら、今回得られたものと同様の信号が検出される可能性は99.98%(3.5シグマの信頼度)。でも、もしトリチウムのβ崩壊による汚染も考慮した場合は、可能性が95%(2シグマの信頼度)に落ちてしまうそうです。

アクシオンだった可能性、じゅうぶん高いじゃん!と素人的には納得してしまいますが、素粒子物理学という厳格な分野で求められる信頼度は5シグマ。アクシオンによる信号だという確証が99.99994%以上担保されなければ「発見」とは言えないそうなのです。

今回の想定外の観測結果も、もっとデータを集めたらただのデータのゆらぎに過ぎないと判明するかも、とBaudisさんは話しています。ひょえー、科学的発見への困難な道のり。

もし本当にアクシオンだったら?

この研究結果に、素粒子物理学界の同志たちからは分析の質の高さに称賛の声が上がっています。

直接研究に携わっていなかったカリフォルニア大学バークレー校のBob Jacobsen教授は、「データの背景を見事に分析している」と評価している一方で、データ量の少なさにも言及し、「まだヒントを得られたに過ぎない」と米Gizmodoに話しています。

また、サラゴサ大学の物理学者・Javier Redondo教授は、「太陽からきたアクシオンがXENON1T検出器を通過したように見受けられる」としながらも、「もし太陽内で作られたアクシオン素粒子がこの信号を作り出していたならば、アクシオンと電子との間にこれまで考えられていたより強い結びつきがあることを示唆している」とメールで説明してくれました。そして、「現時点で理解されている太陽の理論モデルや実験結果をくつがえすようなことは、太陽でさえも賛同してくれないのではないか」とも話しています。

それだけ、もし信号の正体が本当にアクシオンだったと証明されたら、素粒子物理学を揺るがす重大な発見になるのですね。

というのも、もしXENON1Tが検出したものが本当に太陽から来ているアクシオンだったとしたら、太陽の中心核は想定されていたよりもはるかに熱く、はるかに多いニュートリノを放出していることになるのだそうです。

しかし、本当にアクシオンによるものだったと確信するには、もっと決定的な証拠が必要だとRedondo教授は結んでいます。今の時点ではまったく別の素粒子が関わっている可能性も否定できません。それはそれで、ダークマター解明へ一歩近づけるかもしれませんが。

今後の「XENONnT」実験に期待

真実にたどりつけるまで、研究は続きます。

今後「XENON1T」実験装置はよりスケールアップして「XENONnT」へと変貌を遂げ、8トン分の液体キセノンで未知の素粒子を待ち受ける予定となっています。

米サウスダコタ州のサンフォード地下実験施設内、そして中国の四川省にある地下実験施設内に設置された「PandaX」実験装置も同じような信号が得られるかどうかも興味深いところです。

どんなに感度が高い実験装置であっても、もしかしたらその限界値を軽く超えたところをアクシオンがかすめていっているのかもしれません。もしかしたら、検出されたのがアクシオンだったとしてもダークマターとはなんの関係もないかもしれません。逆に、検出されたのがアクシオンではない素粒子でも、ダークマターの謎を紐解く鍵となるかもしれません。

「もしかしたら」がまだまだたくさんある、とBaudisさんは話しています。

正体がまったく見えてこないダークマターですが、ふつうの物質よりはるかに多く存在していることは事実。そこらここらに充満しているのに、まだ人間の技術では検出できないだけなのかもしれません。ダークマターの謎が解けたら、素粒子物理学の新しい時代が到来しそうです。

Reference: 日本経済新聞, 東京大学素粒子物理国際研究センター

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