8月14日、人気ゲーム「Fortnite」(フォートナイト)が、App Store、Google Playでダウンロードできなくなった(写真は2018年11月撮影)。
撮影:小林優多郎
8月14日早朝、米Epic Gamesの人気ゲーム「Fortnite」(フォートナイト)が、アップルの「App Store」とグーグルの「Google Play」から削除された。理由は「利用ガイドライン違反」だ。
Epic Gamesは同時に、以下のような動画を公開した。
これはYouTubeやSNSで視聴できるだけでなく、現在Fortniteを起動した人に、まず最初に再生されるようになっている。
1984年、アップルは「自由なコンピューターの利用」をうたってMacintosh(現・Mac)を発表した。今回の動画はそれを風刺して、「アップルがフォートナイトから自由を奪っている」と主張したのだ。
同時にEpic Gamesは、アップルが独占禁止法を犯していると主張して、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に訴えた。
アップルがApp Storeの利用企業に課している「販売価格の30%をアップルに利用料として支払う」というルールが一方的であり、競争を阻害している……という趣旨だ。
Epic Gamesが公開した、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に対する訴状。アップルを独占禁止法で提訴している。
出典:Epic Games
フォートナイトの総プレイヤー人口は、2020年5月の段階で全世界3億5000万人。巨大なタイトルに関する問題だけに、注目が集まっている。
Epic Gamesの真意がどこにあるのか? そして、今後、どのような結果になるのかを予想してみよう。
30%ルールに「決裂前提」で戦いを挑んだEpic Games
スマートフォンのアプリ市場は、アップル、グーグルのか占状態にある。
撮影:今村拓馬
スマートフォン・タブレット向けOSの世界では、アプリケーションの配布・販売元は寡占状態にある。
例えば、iOS/iPadOSでは、アプリ配布元はアップルのApp Storeしか存在しない。Androidの場合には複数存在できるが、それでもシェアはGoogle Playが圧倒的だ。
こうした構造になっている理由を、アップルは主に「セキュリティーのため」としている。アップルやグーグルの審査を経ることで、悪意のあるマルウェアやフィッシング詐欺の可能性があるアプリの流通を防げる。
両社共に「100%防げている」とまでは言わないが、PCで起きているような“混乱”状態にない理由はここにある、というのは間違いない。
AndroidはGoogle Play外のアプリもインストールでき、アマゾンやサムスンなどがストア機能を展開しているが、中国以外の市場はGoogle Play一強と言える状況だ。
撮影:小林優多郎
一方、流通経路が事実上1つであり、その上での販売について一律に利用料金が課されるのは不公平であり、その額が30%というのは高い、という指摘があるのは事実だ。
この点については、過去、日本企業も含め、多くの企業が不満を表明してきた。ただし、今回の問題はそこに直接関係していない。
「追加課金にも30%の手数料を取られる」ことは適正か
もう1つ重要なことは、この「30%ルール」は、アプリ単体の販売だけにかかるわけではない、という点だ。
アプリの中から購入する部分、例えば、追加コンテンツなどの利用や、サブスクリプションの契約にも関係する(ただし、サブスクリプションについては、契約が1年継続した後には15%になる、というルールも存在する)。
この「追加課金に対しても、基本的にはAppStore経由でなくてはならず、30%というルールが適応される」というのが、今回のフォートナイトの件での焦点だ。
アップルが開発者向けに一般公開している「App Store Reviewガイドライン」では、アップルが提供する以外の方法でアプリ内課金をすることを禁止している(赤枠は編集部による加工)。
出典:アップル
フォートナイトがストアから削除された直接の原因は、「アプリ内に、AppStore以外からの課金の仕組みを用意した」ことにある。
以下はフォートナイト内の画面だ。アイテムを購入するためのゲーム内通貨を購入する画面に、「Apple AppStore」とEpic Games独自決済の「Epic ディレクトペイメント」が並んでいて、「Epic ディレクトペイメント」の方が大幅に安い。
これが、アップルが定める「アプリ内からの購入で、AppStore以外からの課金の仕組みを回避ことを許諾しない」というルールに抵触したため、アプリの登録が取り消されたのだ。
8月14日現在、iOS/iPadOS版フォートナイトから課金しようとするとこのような画面が。AppStore以外にEpic Gamesの自社課金をアプリ内に用意した点が問題となった。
出典:Epic Games、スクリーンショット:西田宗千佳
このやり方がルール違反であり、アップルがアプリ登録を取り消す(その後、グーグルも追随する)ことは、容易に想像がつくことだ。Epic Gamesはもちろん、「アップルが対応してくることを想定した上で、わざとこうしている」のだ。
そして、登録取り消しを見越して、動画の拡散と独禁法違反での提訴の準備をしていた。アップルとの妥協点が見出せないことをわかった上で、準備万端整えて戦いに臨んだ、ということだ。
1つの本質は「アプリ内からの課金」の多様性にあり
例えば、iOS/iPadOS向け「Kindle」アプリの場合、電子書籍の試し読みはできるが購入はできない。
撮影:小林優多郎
「アプリ内からはApp Storeでの課金を回避してはならない」というルールには、過去から異議も出され、対策もなされてきた。
もっともわかりやすい例は、「追加コンテンツやサブスクリプションにApp Storeを使わない」というやり方だ。
アマゾンの電子書籍ストア「Kindle」は、よく知られるように、iPhone/iPadの場合、Kindleアプリ内から本を買えない。ウェブブラウザー経由でアマゾンを開いて買う。
iOS/iPadOS向けの「ネットフリックス」アプリの場合、ログイン前にアプリ外でメンバー登録が必要な旨が明記されている。
撮影:小林優多郎
映像配信大手のネットフリックスは、2018年12月にAppStore経由でのサブスクリプション契約の受付を止めた。
現在、新規契約するには、ウェブから課金登録をする必要がある。音楽配信サービスのSpotifyも同様の措置を取っている。
これらは、追加コンテンツへのAppStore課金を回避する仕組みと言える。アプリから一旦離れないと使えないため、使い勝手はその分落ちる。
フォートナイトの中で「Epic ディレクトペイメント」での決済だと安くなったのは、AppStoreが徴収する手数料がない分、Epic Gamesが安い価格をつけているからだ。
Epic Gamesが公開した動画は、1984年にアップルが公開した動画のパロディだ。
出典:Epic Games
「では、同様の仕組みをEpicも使えば良かったのでは……」と思うだろう。だが、実際にはそれはできない。
この仕組みはゲームのようなアプリには許諾されていないからだ。また、「直接的にアプリの中で他の決済手段を使う」ことは、他のコンテンツでも許されていない。
Epic Gamesは、「ユーザーに安価にコンテンツを提供するためにマージンを減らしたい」という点、「アプリから直接課金で自社に誘導し、使い勝手を維持したい」という点の両方でブレイクスルーを狙うために、アップルとの全面対決を選んだのだ。
「落とし所」探る巨大IT企業とゲーム会社の戦い
世界各国で人気のタイトルに成長しているフォートナイト(写真は2018年11月撮影)。
撮影:小林優多郎
初戦はEpic Gamesの作戦勝ちといっていいだろう。
「30%が高い」「独占的ではないか」という彼らの主張が広く認知されたのは間違いない。
結局はEpic Gamesという別のプラットフォームの中に行くだけで、「誰かに管理される状態でなくなる」わけではないのだが、「ビジネス上の自由」をうまく訴えたキャンペーンだ、と筆者は思う。
PC向けゲームを展開する独自ストア「Epic Games Store」。
出典:Epic Games、スクリーンショット:小林優多郎
実は、Epic Gamesが配信プラットフォーマーと対決したのはこれが最初ではない。PCでは「70:30は高すぎる」として大手ゲーム配信事業「Steam」を運営する米Valveに対抗、自社で「Epic Games Store」をスタートした。
Epic Games Storeは自社の取り分を12とし、「88:12」モデルで対抗している。結果として、Steamも配信モデルを見直して対抗し、多様化が進んでいる。こうした主張は、Epic GamesのCEOであるティム・スウィニー氏のポリシーを反映したものだ。
アプリが削除されたものの、アップルやグーグルはEpic Gamesを排除したいとは考えていないようだ。両社とも、「アプリの復帰に向けて協議は続ける」としている。
Epic Gamesの抗議動画には日本語字幕も用意されている。
出典:Epic Games
Epic Games自身が言うように、アップルのデバイスには10億台分の見込み顧客がいる。それを捨ててしまうことはできないだろう。アップルも、フォートナイトのようなドル箱を無視することはできない。
焦点は「どこで彼らとEpic Gamesは折り合いをつけるのか」という点だ。Epic Gamesの狙いは、シンプルに言って「条件闘争」といっていい。
PCのように、スマホで「自社アプリストアをつくる」ところまでいけるかというと、これは難しい。
セキュリティーモデルも異なるし、利用者の考え方も異なるからだ。AndroidにはGoogle Play以外のアプリストアもあるが、(中国国内向けを除くと)大成功しているところはない。
ゲームにもネットフリックスのような抜け穴は容認されるか
フォートナイトは、8月7日と8日に米津玄師がアルバム 「STRAY SHEEP」の映像をプレミア公開するなど、多くの人が参加する作品になっている。
出典:Epic Games、スクリーンショット:西田宗千佳
ポイントは「一律をどう脱するか」ではないか、と筆者は考えている。
比較的小規模な事業者や強いブランド力のない事業者は、アップルやグーグルの「30%ルール」を、高いと思いながらも許容している。
自社だけで、マーケティングし、課金プラットフォームをもち、個人情報を取得して守った上でビジネスをするには、当然かなりのリスクがあるからだ。
料率が下がればありがたいだろうが「全部自分でやりなさい」と言われても困る。
アップルやグーグルは開発者に対し、さまざまなツールを提供している(写真はグーグルが提供している「Google Play Console」)。
出典:グーグル、スクリーンショット:小林優多郎
一方で、Epic Gamesやアマゾン、ネットフリックス、Spotifyといった「自分たちでもできる」規模の事業者にとっては、一律のルールに則るよりも自社の責任でやりたい……という発想が出てくる。
アプリストアが生まれた10年前と違い、今はそういう大手もたくさんある。
説明したように、ネットフリックスなどゲーム以外のコンテンツでは「外部で決済」という手段で妥結した。
では、ゲームではどうなるのか? そして、Epic Games以外に「自社でやりたい」ところが出てきた場合、アップルやグーグルはどう対処するのか? そこに注目しておくべきだ。
(文・西田宗千佳)
西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。
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2020-08-14 09:50:00Z
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