5年前の時点では、『フォートナイト』が世界でもっともプレイヤーの多いゲームのひとつになるなどとは誰も想像していなかった。Epic Gamesによるカートゥーン調TPSである『フォートナイト』は、年月を経るなかでマルチプレイのタワーディフェンスゲームからバトルロイヤルゲームへと変わっていったうえに、いまや大作映画の上映の場であり、人種間の関係性にまつわる議論の場であり、人気ラッパーのコンサート会場でもあるSNSプラットフォームへと変貌を遂げた。急激な成長に伴って『フォートナイト』という看板タイトルは、その原点である単なる1本のゲームという枠を超越し、いまやEpicの利益を代弁するロビイストの役割をも担う存在になっている。
8月13日、Epicは自分たちの財布に手を突っ込んでいる企業たちのうちAppleとGoogleに『フォートナイト』を通じて事実上の宣戦布告を行い、今後ゲーム流通の在り方を大幅に変えてしまうかもしれない一連の騒動の火蓋が切られた。しかし、ここで注目したいのは、Epicはなにが起ころうとも自分たちが確実に勝利を収める(法的な意味で負けたとしても、世論の支持という面で勝利する)やり方でこの宣戦布告を行ったことだ。EpicのCEOであるティム・スウィーニーがTwitterで主張しているように、同社はこの訴訟で巨額の利益を得るのみならず、AppleやGoogleの手数料ポリシーに不満を抱いてはいても彼らと矛を交えるために必要な数十億ドルもの資産がない中小ゲームデベロッパーたちの擁護者として振る舞うことで、ゲーム史のなかで自社を正しい者たちの側に位置づけることを企図しているのだ。
まず、EpicはAppleとGoogleの決済システムを介さない、独自の課金システムを導入し、クパチーノ(※Appleが本社を置くカリフォルニア州の市)とマウンテンビュー(※Googleの本社が存在する)の巨人を挑発。するとAppleとGoogleはすぐさまApp StoreとGoogle Playから『フォートナイト』を削除した。対抗措置としてEpicは、1984年のスーパーボウルでAppleが公開した有名なコマーシャルを『フォートナイト』のキャラクターたちでパロディ化し、SNSや『フォートナイト』内で公開した。ジョージ・オーウェルの小説『1984』をテーマにしたこの有名な広告は、消費者に服従を強いる資本家や企業たちに反旗を翻すダークホースとしてのAppleの立ち位置を確立し、IBMなど当時ITの巨人だった会社に大胆かつ無謀な攻撃を加えるものだった。それに対し今回のEpicによるパロディ版は、かつてAppleが批判したIBMの立場にリンゴのキャラクターを位置づけており、誰を批判する意図があるのかは明白だ。
Appleによる『フォートナイト』の削除からパロディ動画が公開されるまでの時間は異様なほど短く、Epicのマーケティングチームがコンセプトを練り、社内の承認を得て制作に取り掛かるような時間的余裕があったとはとても思えない。Epicが企業間の嫌がらせを意図して一連の行動を起こしたのは、このことからも明らかだろう。ティム・スウィーニーCEOの宣言からもわかる通り、今回の騒動は件の動画をはじめとした一連の攻撃を展開するための単なる口実にすぎないのだ。Epicは、AppleとGoogleに対する訴訟を展開しつつ、『フォートナイト』のファンたちの怒りを武器として利用することを選択し、そのための作戦をしばらく前から綿密に練り上げていたようだ。その良し悪しは別として、Epic Gamesは退屈な企業間での係争はバズワードとハッシュタグを絡めると極めて効果的になり、しかも法的な戦いの結論がどうなろうとも広報面での大勝利を収めることができると気づいてしまったのだ。
目下、Epicのマーケティングチームが自分たちで声高に唱えはじめた ”#FreeFortnite”(『フォートナイト』を解放せよ、の意) のハッシュタグがSNSを席巻しつつある。『フォートナイト』の開発元であるEpicは、何百ものゲーム開発者に利用されているUnreal Engineを提供している会社でもあり、テンセントやソニーといった大企業による支援も受けている。そんな同社が、巨大なゴリアテに立ち向かう小さきダビデの役割を演じているのが今回の騒動だが、この状況を示す適切な比喩は「ダビデ vs. ゴリアテ」ではなく、「ゴリアテ vs. さらに大きなゴリアテ」だろう。
AppleとGoogleに対して吹っ掛けた今回の論争にEpicが勝利を収めるのかどうかは置いておくとしても、『フォートナイト』やiOS・Android上で提供されるほかのゲームがアプリ内課金でより多くの利益を得られるようにする、というのは正直なところ議論の余地のある争点だ。Epicはそうした議論の積み重ねをすべて無視し、問題をぐちゃぐちゃにかき回したうえでどんな結果になるかを試してみようとしているように思える。
さまざまな年齢層からなる『フォートナイト』の利用者たち(18歳未満が占める割合も少なくない)は、SNS上でEpicが提供した大義名分を振りかざしている。同社はAppleとGoogleに「公正な商慣習とはかけ離れたやり方でEpicの自由を踏みにじる理不尽な悪者」というレッテルを貼り喧伝して回ることで、この論争に注目を集めようとしているのだ。EpicはAppleとGoogleの手数料ポリシーによって消費者はより安価にサービスを受ける権利を損なわれている、とほのめかすことで『フォートナイト』の熱心なファンたちをこの戦争における最前線で戦う兵士に仕立て上げ、さらには苦情や嫌がらせを送り付ける先として自分たちのブログ上にApp StoreのTwitterアカウントのリンクを張ることまでしている。たしかにこれらは違法なことではないし、戦略としては利口だとすらいえるのかもしれないが、少なくとも現時点では、ゲーム業界とは無縁であるべき、スポーツマンシップにもとるマキャヴェリズム的行動であることは間違いない。Epicがファッショナブルなハッシュタグや重層的な意味を持つ動画で扇動しているようなオンラインでの嫌がらせは、2020年にもなって「無知だから」という言い訳で許容され得る類のものでは到底ない。
しかし、この億万長者同士の小競り合いによって本当の意味で損なわれたのは、Epicの主張そのものは間違ってはいないという重要な点だ。Epicによる行動の動機は自分勝手なものに見えるかもしれないが、アプリ内課金における30%の手数料が、コンソール(家庭用ゲーム機)、PC、モバイルなど、長年にわたって業界の揺るぎない標準であり続けてきたのも事実だ。AppleやGoogleが不要な手数料を課すせいで、もとより少ない収入がさらに貧弱になってしまうと感じているインディー開発者たちが、自分たちで既存のシステムをひっくり返すほどのブランド知名度や資金・人材などがない以上、Epicの取り組みを応援したいと考えてもそれは無理からぬことだ。Epic自身もEpic GamesストアやUnreal Engineのマーケットプレイスで大幅な手数料値下げを行って30%という数字と戦い続けており、スウィーニーはTwitterで「パートナーたちに極めて競争力の高い条件を提示するとともに、Epic自身にとっての必要な収益も確保する」と説明している。
また、今回モバイル市場で攻撃を仕掛けたことにより、任天堂、ソニー、マイクロソフトが独占する市場への自社製品の参入という議論も成り立つようになった。Epicがこの訴訟に勝つかどうかや、サービス規約の変更を勝ち取るかどうかにかかわらず、同社は多くのゲーム開発者たちが懸念している問題についてけたたましく警鐘を鳴らしたのだ。AppleやGoogleはもはやこの問題を等閑視することができなくなり、一方のEpicは真の目的を覆い隠すことのできる「消費者と開発者たちの権利を守るため」という大義名分を得た。そしてそれ以上に重要なのは、第三者たちが自分たちの財布に手を突っ込んでいるような現状についてEpicが自社の見解を公然と表明し、そのメッセージを鮮明にするために自分たちのプラットフォームを利用したという事実だろう。Epicの今回の行動がゲーム産業全体の利益につながるのかどうかは現時点では見通せないが、今後何年にもわたってその影響が残り続けることだけは疑いの余地がないだろう。
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2020-08-18 07:01:00Z
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