理論的には「あるはず」と言われ続けてきたブラックホールが、とうとう人類の目に明らかになったのは2019年4月10日のこと。
総勢347人から成るイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)チームが人類史上初めて超巨大ブラックホールの撮影に成功したというニュースは、ほんとうにセンセーショナルでした。
でも、写真が撮れたからハイおしまい、というわけではもちろんなく、その後もブラックホールの研究は続いています。これまでの調査結果からは、アインシュタインが提唱した一般相対性理論が肯定されただけでなく、ブラックホールを取り囲んでいる左右非対称なリングがぐらつきながら回っていることもわかってきたそうです。
ブラックホールの静止画
実のところ、上記画像をブラックホールの写真と呼ぶには少し語弊があります。というのも、実際写っているのはブラックホールそのもの(もちろん見えない)ではなく、ブラックホールの「事象の地平面」のまわりをぐるぐる回っている超高温のガスだから。ちょうどお風呂の栓を抜くと水が中央の穴に向かって渦巻くように、ブラックホールの強大な重力にひっぱられたガスや塵がぐるぐるとブラックホールのまわりを渦巻いている様子が写し出されているんですね。
研究対象となったのは銀河M87(乙女座A)の中心にあるM87*と呼ばれているブラックホールで、質量は太陽のおよそ65億分というとてつもない大きさです。ですが、銀河M87は地球から5500万光年も離れているので、よほど解像度の高い望遠鏡でないと観測できません。
そこで、「超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometry, VLBI)」という技術を用いることで、世界各地にある8台の電波望遠鏡をつないでひとつの巨大な望遠鏡と同じ解像度を引き出すイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)を構築したのです。
EHTが完成したのは2017年で、4月にはさっそく1週間かけてM87*の観測が行われました。その膨大な電波データを2年近くかかって集積し、解析して、モデリングした結果が2019年に満を持して公開されたというわけです。
ブラックホールの10年越しの変化
公開されたのは静止画でしたが、もちろん本物のブラックホールは絶えず活動しています。そこで、研究はブラックホールを動的に捉える次の段階へと進みました。
2009年まで遡ってM87*の観測データを取得し、時間の経過に伴う変化をまとめた研究結果は、先日学術誌『Astrophysical Journal』に発表されたばかりです。
「ブラックホールの10年越しの変化を追うためには、10年分のデータが必要なのは間違いありません」とプレスリリースで説明しているのは論文の筆頭著者であり、ハーバード・スミソニアン天体物理学センター所属の天文学者、Maciek Wielgusさん。
でも、EHTが完成したのは2017年。それより前のデータをどうやって取得したのでしょうか?
実はEHTが完成する以前から、EHTのプロトタイプがすでにM87*に関する重要なデータを収集していました。具体的には、2009〜2012年にかけては3台の電波望遠鏡から、そして2013年には4台が稼働していたそうです。
「EHTが完成する以前の観測データには画像を抽出できるほどの情報量はないが、より簡易な幾何モデルに制約を加え、ブラックホールの状態を推測することは可能である」と論文著者たちは説明しています。つまり、統計モデルを使い、それでも足りない部分はこれまでの観測に裏付けられた推測で補うことによって、EHT以前のデータからもブラックホールがどのような状態にあったかを推察することができたのです。
わかったことその1:リングの大きさと形は変わらない
研究の結果、M87*は過去ほぼ10年間に渡って一定の形を留めていたことがわかりました。これはアインシュタインが100年前に発表した一般相対性理論の予測どおりです。リングの直径は、この大きさのブラックホールに対して一般相対性理論が予測する数値とぴったり一致していたそうです。
マサチューセッツ工科大学ヘイスタック天文台所属の共著者・秋山和徳博士は、「この研究により、M87*の周囲を取り囲む左右非対称なリングが数年間持続していることが確認されました」とプレスリリースで説明しています。「観測により得られたデータが理論的に導かれた予測を裏付けたことになります。数年に渡って一定の数値が得られたことも、研究の信頼性を高めています」とも。
わかったことその2:リングはグラつきながら回転している
ただ、時間の経過とともに大きな変化も見られました。M87*のリングの大きさと形は一定であれ、ぐらぐらしながら回転している様子が見てとれるのです。
マックスプランク電波天文学研究所のThomas Krichbaumさんは、「データを分析したところ、時間の経過とともにリングの向きと構造が変化していくことが明らかになりました」と説明。「このことは、ブラックホールの事象の地平面(ブラックホールの重力により光さえも逃れられなくなる境界)のまわりを巡っている降着流(accretion flow)の変化を知る上で非常に重要です」とも述べています。
リングのとりわけ輝いて見える部分は超強力な磁場によって激流となっている部分だと考えられ、時間とともに位置も方向も変わっています。すなわち降着流の速度は、少なくともM87*の場合は一定ではないということ。そしてその速度を計算するには、リングのぐらつきがヒントになるかもしれないというのです。
ブラックホールの謎に迫る
ブラックホールについてこんなにも詳細に把握できた研究は前代未聞です。EHTの超高解像度をもってすれば、降着流の速度をはじめとして、これまでまったく謎だったジェット現象についても新しい情報を得られるかもしれない、と今後の研究にも大いに期待が高まっているそう。
ジェットとは、超巨大ブラックホールの近くから勢いよく噴き出してくる電離ガスのことです。光速に近い速さで数万光年先まで飛んでいくこともあるそうですが、その成り立ちは不明のまま。ジェットの秘密を知ることができれば、ブラックホールがなぜ銀河の中心に位置しているのか、そして銀河の形成にどのような影響を及ぼしているのかを知ることができるかもしれません。
ブラックホールなんてただの理論上の産物だとちょっと前まで考えられていたのに、アインシュタイン博士が生み出した一般相対性理論の正しさが徐々に実証されつつあります。
Reference: EHT-Japan, Event Horizon Telescope, 天文学辞典
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2020-09-30 14:00:00Z
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