9月2日、米Appleと米Googleは、新型コロナウイルス感染症対策の一環として使われている「接触通知」技術の基盤について、新しい発表を行った。以前から使われている「Exposure Notifications System(接触通知システム、ENS)」の次の段階に当たる「Exposure Notifications Express(接触通知エクスプレス、ENE)」と呼ばれる仕組みだ。
簡単にいえば「接触確認アプリ」を用意することなく、スマートフォンのOS上で機能をオンにすることで、接触確認アプリと同じことを可能にするものだ。
ただし、この機能の狙いと「日本での使われ方」については誤解も多々ある。そこで、仕組みと日本での意味について解説してみたい。
「接触確認アプリ」登場の流れをおさらい
接触確認アプリとは、スマートフォンのBluetoothを使い、「1m以内に15分間以上いた」人同士を「濃厚接触があった人」と判断、その記録を匿名化して記録し、陽性登録者のデータベースと照合することで「過去2週間以内に陽性登録者と濃厚接触の疑いがあったかどうか」を通知するもの。
この仕組みは、もう多くの方がご存知だろう。日本の場合には厚生労働省が、日本の陽性者登録システムである「HER-SYS」と連携する形で「接触確認アプリ COCOA」として運用している。
COCOAでも使われているのが、AppleとGoogleが共同で開発・策定したフレームワークである「Exposure Notifications System」(ENS)だ。「1m・15分」というルールやBluetoothビーコンの使い方、OS上でバックグラウンド動作からプライバシー保護の仕組み、さらには各国での運営のために、どのような形でアプリを提供するのか、という点まで規定している。
その結果として、プライバシーに最大限配慮しつつ、スマートフォンの消費電力にもほとんど影響を与えずに「接触確認」が行えるようになっている。
中には、Apple - Googleのフレームワークを使わない国もある。フレームワーク導入(6月)以前にアプリで接触者を追跡していたシンガポールやオーストラリア、プライバシーに対する考え方の違いや求める機能の違いから独自実装を決めたフランスなどがある。
だが、消費電力や安定性などの課題も大きく、英国のように独自実装を前提に検討しつつも、Apple - Google方式に切り替えた国もある。
英国がApple - Google方式に切り替えていることからも分かるように、独自実装でアプリを作り、さらに消費電力・安定性をクリアできるアプリを作るのは大変だ。AndroidとiOSの両方で実現するとなると、さらにハードルが高いのが実情ではある。
日本での導入に関わった内閣府副大臣の平将明氏は7月末に行われた取材で、「GoogleとAppleの方式であれば、OSとの兼ね合いで、バッテリー消費などの問題が出づらい。時間を取るのか、実用性を取るのか。 『次の感染に備えて実用性に優れたものを』という政治判断をした」と導入の経緯を語っている。
これからの国のために「アプリを作る手間」を省く
というわけで、Apple - Google方式を使うのが現状はベターなシナリオである……という認識の国が多いのは事実である。
6月に導入をスタートした日本やドイツなどの国々では、1500万件を超えるダウンロードが行われている。これは決して悪いペースではない。8月末の段階では、ドイツが1700万件程度で最も多く、次いで日本、という状況だ。
接触通知アプリは、米国での導入もようやく進み始めた。AppleとGoogleの本場である米国が後追いというのは奇妙に思えるかもしれないが、アメリカは「合衆国」(United States)である関係もあり、導入は州単位で検討・決定が行われる。そのため、GPSベースの物を先に導入したノースダコタ、サウスダコタのような州もあれば、これからApple - Google方式を導入する、という州もある。
さらにはより小さな国々でも、接触通知アプリの導入を希望しているところはある。
一方で課題となるのが、「各国単位」でアプリを作る、という点である。フレームワークを使わずにゼロから作るよりは容易とは言いつつも、アプリを作って国中に広く展開するのは大変だ。
というわけで、Apple、Googleが「対応の第2段階」として準備したのが、今回の話題である「Exposure Notifications Express」(ENE)である。
ENEはENSと異なり、アプリのインストールを前提としない。OS側に濃厚接触疑いの記録と、陽性者データベースと照合、ユーザーへの通知までの機能を全て持つ。だから、OS側で機能を「オン」にするだけで使えるようになる。そのため、アプリを開発する余裕のない国や、アプリをまだ導入できていない地域で迅速に展開することが可能になる。
そして、ENSとENEは基本的に互換性がある。
4月にAppleとGoogleが計画を発表した時から、「第2段階ではOSに機能を組み込むことを目標とする」とされていた。だから、この流れは想定されていたものではある。
だが、第2段階がいつになるかは分からなかった。いち早く導入を望んでいた日本を含めた多数の国は、アプリとOSの連携による現在の形でのやり方を選んだ、という経緯がある。
COCOAがいらない、は「間違い」だ
「アプリがなくてもいいならその方がいい。もうCOCOAはいらないのか」
そんなふうに思った方、ちょっと待った。そうではない。特にiOSの場合、iOS 13.7以降では、OS上にわかりやすく「接触通知」という項目が現れるので、いかにも「もうアプリは不要になった」ように見える。
しかし、そうではないのだ。現実にはCOCOAは必要だ。「不要ではないか」という説がSNSなどを通して拡散されたこともあってか、厚生労働省は自らのTwitterアカウントで、「COCOAは必要」との説明を拡散した。
厚生労働省だけでなくGoogleも、「日本ではCOCOAを利用する形で、当面ENEは関係ない」とコメントしている。
理由は2つある。
1つは、接触通知のシステムはあくまで「その国の保健衛生に関わる機関」(日本なら厚生労働省)が運営するものであり、彼らの動作確認やデータベースとの接続なしには成立しない、ということ。現状はその段階になく、あくまで「アプリでの運用」が日本での方針になる。特に、陽性者データベースである「HER-SYS」との連携確認は必須だ。
COCOAの導入にも関わった、内閣府・新型コロナウイルス感染症対策テックチームは、「OSでの対応」について、7月末の段階で以下のようにコメントしている。
OSレベルになって、アプリが不要になるのであれば、オプトインは守りながら、より多くの方に届くのは良いことだと思う。ただ、詳細は把握していない。ひとつ言えるのはOSレベルで完結するのではない、ということ。各国の保健衛生当局との連携は必要。日本で言えばHER-SYSです
2つ目は、「通知だけでは完了しない」こと。通知されたらどう判断すべきか? どう連絡をして、どう生活すればいいのか? その情報は、現状COCOAを起点に提供する形になっている。「よく分からない」「不便だ」という声もあるが、厚労省の担当者によれば「9月中にはアップデートの予定」ということなので、そうした表示や導線にも手が入ることだろう。
先ほども説明したように、ENEはあくまで「まだアプリが作られていない環境」に向けてのものだ。特に直近では、各州への導入を加速する米国が重要なターゲットになっている。そして今後さらに、アプリが作れない国に導入されていく。ENEの正式稼働は9月末の予定で、各国・地域での稼働はそこからだ。
日本として、「アプリなしの方が手軽だ」と判断してCOCOAからの切り替えがある可能性は「ゼロではない」が、その予定になっているわけではない。なのであくまで「COCOAを入れる」のが前提だ。逆にいえば、「入れるだけ」なので、なにか大きな負担が増えるわけでもない。
アプリから切り替えるにしても、アプリの開発やサポートを切り替えた上で、告知などのあり方も変えていく必要があり、すぐにできるわけではない。
ENEでもENSでも、OSやGoogle開発者サービスの最新版へのアップデートは必須。それを促す必要があるという意味では、アプリを使うのもOSに依存するのも同じことである。
そして、特に日本の場合、重要なのは「濃厚接触と通知が出た人が戸惑わずに対応できる導線を強化すること」であり、「HER-SYSへの登録量と更新速度を上げること」だろう。それは多くの部分がENSやENEの外にある「運用」の部分である。大変な時期なのは分かっているが、厚労省にも、この仕組みがより有効に活用されるよう、利用者の視点に立った運用方針の策定とその実行を望みたい。
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2020-09-04 08:37:00Z
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