多くの企業がDX領域に取り組む中で、顧客接点をスマホに求める動きが加速しています。特にアプリの重要度は年々増しており、1ユーザーあたりの月間平均利用アプリは41個、日間平均アプリ利用時間は4.8時間との調査結果があります(※1)。
本連載では、アプリ開発で電通と協業しているフラー株式会社にインタビュー。初回は、iPhoneの黎明(れいめい)期からアプリを追いかけてきたフラーの山﨑社長に、「良いアプリの7カ条」について語ってもらいます。
フラー株式会社
デジタル領域で企業の事業支援を行い、主力事業の一つはアプリのデザインと開発。アプリとその市場をきめ細かく分析し、戦略構築からプロダクト開発、グロースまでを一手に手掛ける。同社では、エンジニア、デザイナー、データサイエンティスト、ディレクターからなるクリエイティブチームがさまざまな企業の優れたアプリを生み出している。
フラー代表取締役社長・山﨑将司氏。大学時代からアプリ開発に携わる。長年にわたり国内外のアプリを多数試していて、さまざまなアプリに精通している。アプリ開発においてはスタッフに単なる知識を伝えるのではなく、自分の使用感をもとに的確なアドバイスをしている。
良いアプリの7カ条とは?
私は大学時代から15年以上アプリ開発に携わっています。さまざまなアプリを開発するなかで、アプリの良しあしを評価する基準があまり存在していないと感じていました。もちろん全くないわけではなく、使い勝手に関しては代表的なものとして、アメリカの工学博士であるヤコブ・ニールセン氏が提唱した「ユーザビリティに関する10の原則」があります。その原則とはおおむね下記のようなものです。
ユーザビリティに関する10の原則(フラー調べ)
- サービスの状況をリアルタイムで視覚的に伝える
- なじみのある語句や意味合いで情報を伝える
- 誤った操作をしても元に戻せて、自由に操作できる
- デザインに一貫性があり、一般的なものである
- 操作ミスを予防してくれる
- 記憶に頼らずに理解できる
- 初心者でも上級者でも使える
- 最小限で美しいデザインである
- ユーザーのエラーの認識や回復を支援する
- ヘルプやマニュアルを提供する
しかし、これらの原則はアプリのマイナス要素を減らすことには寄与しても、プラス要素を加えるのには物足りないと個人的には感じています。上記の10原則の他に、より多くの人にアプリを使っていただくために満たすべき基準があるのではないか。そこで、これまでのアプリ開発の経験などを踏まえながら、「良いアプリの条件」として次の7カ条を考えました。
この7カ条の一つでも満たしていると良いアプリと呼べると考えています。もちろん、できる限り多く満たせているとより良いです。この7カ条について、本連載で一つずつ、具体的なアプリの事例も交えて解説していきます。
良いアプリの7カ条①:目的が一言でいえる
今回は一つ目の「目的が一言でいえる」を解説します。この条件は、7カ条の中でも私たちが普段のアプリ開発で特に意識していることです。何のためのアプリなのかをわかりやすく定義すると、アプリを使ってもらいやすくなります。
例えば、この店では絶対にこのアプリを開く、ある行動をするときには絶対にこのアプリを使う、といったように。目的が一言でいえると、ユーザーが他の人にも説明しやすいので、よりユーザーが増える可能性が高まります。世の中で多くの人に長く使われているアプリはこの条件を満たしているものが多いと感じます。
しかし、世の中のアプリには、機能は充実しているものの何の目的で作られたのかわかりにくいものが数多く見られます。おそらく、いろいろな機能や情報を入れないと使ってもらえないのではないかという恐れや、いろいろなことができたほうが便利でユーザーが増えるという思いがあるのでしょう。そうすることで逆にアプリの目的がわかりにくくなり、ユーザーが離れてしまう事態になりかねません。
アプリ開発では機能を増やすのは比較的簡単ですが、一度ユーザーに使ってもらった機能をなくすのは相当な覚悟が必要です。かつて「機能を減らすには哲学がいる」と言ったデザイナーがいましたがその通りで、機能を減らすには「減らした方がより良くなる」という強い意志を持って提案する人がいないと減らせません。また、アプリの目的がいろいろあると、アプリやユーザーについて的確な分析がしにくくなります。
私たちがアプリ開発に取り組む際は、軸となる機能を絞り、それ以外をそぎ落としてなるべく少ない機能でリリースする提案を心がけています。そうすることでその機能を本当に利用してくれるかどうかがわかりやすくなります。
目的が明確で長年愛されている二つのアプリ
「目的が一言でいえる」という点で注目している二つのプロダクトがあります。一つは、アメリカの企業が2011年にリリースした「Day One Journal」という日記アプリです。2012年に Mac App of the Year、2014年にApple design Awardを受賞し、現在もアップデートを重ねている優れたアプリです。2021年時点で、リリースされてから世界中で1500万回以上ダウンロードされています(※2)。
このアプリの良いところは、「日記を書く」という機能に集中していることです。日記のサービスというと、多角化や収益化を図るために、他者との共有機能や、押してしまいやすいところへの広告表示など、本来の日記サービスで成し遂げるべきことから離れてしまいそうな機能をつけがちです。このアプリは、「一人で集中して日記を書く」ということに焦点を合わせ、その機能を強化し続けています。
もう一つは、「Substack」という、メールマガジンの配信・購読のサービスです。「Substack」はアメリカの企業が2017年にサービスをリリースし、iOSのアプリは2022年にリリースされました。
このアプリは主にメールマガジンを購読することに特化しています。メールマガジンの原稿自体はPCのブラウザ上でしか書くことができず、アプリは受け取ることがメインになっています。受け取ったメールマガジンの内容について簡単なコメントを書くことができたり、チャットを送ることができたりしますが、それらはあくまでサブの機能です。ユーザーは広告や興味のない人のコメントなどに邪魔されずに、読みたいものを集中して読める設計になっています。
SNSが成熟したいま、SNSでのユーザー同士の関わり方が変わり始めたのではないかと感じています。その一つの形として、「Substack」のような受け取ることに特化したアプリが支持されているのではないでしょうか。
メールマガジンは日本では古くなってしまった文化だと認識されることもありますが、アメリカではお金を払ってメールマガジンを読む文化があり、さまざまな分野のインフルエンサーがこのアプリを使って個人で配信し、収入を得ています。2023年には、3500万人のアクティブな購読者と、200万人以上の有料購読ユーザーが存在するサービスとなっています(※3)。
アプリは、「一回使われて終わり」ではいけない
アプリの目的を明確にするために機能を絞った方がいいと述べましたが、それは機能を増やさないということとは違います。アプリの目的を達成するために必要な機能であれば、アップデートの際に増やしていくことは問題ありません。
アプリは繰り返し使ってもらう必要があるので、一回使われて終わりではいけません。アプリはウェブサイトとは使い方が大きく異なります。アプリはインストールしてもらう必要があり、そのためのハードルはかなり高いです。しかもスマホのOSのアップデートに合わせてアプリも定期的にアップデートしなければならず、ウェブ以上に運用費がかかるケースが多い。そのため、一緒に作り上げていく企業にも長年一緒に携わる覚悟を持っていただくために、私たちがアプリを提案するときは3年スパンの計画を立てることもあります。
アプリを通じて達成したい明瞭な目的があり、その目的までの道のりを時間をかけて改善していく。そうすることが、多くのユーザーに長く使ってもらうことに繋がります。こうした想いを、「目的が一言でいえる」という言葉として大切な条件にあげました。
次回は、「良いアプリの7カ条②:デバイスやOSの持つ特性を最大限活用している」について解説します。
事業価値を創造して顧客へ届ける電通と、事業価値からアプリ体験へのシームレスな開発を得意とするフラーが連携し、市場分析・戦略構築・開発・マーケティング・運用までをワンストップで提案するプロジェクト。
これにより、課題設定をアプリ開発のみに限定することなく、顧客企業のビジネス全体に目を配った理想的なアプリの開発が可能になります(リリースは、こちら)。
※1 フラー2022年「アプリ市場白書」調べ
※2参照:https://techcrunch.com/2021/06/14/wordpress-com-owner-automattic-acquires-journaling-app-day-one/
※3 参照:https://on.substack.com/p/introducing-notes
https://news.google.com/rss/articles/CBMiI2h0dHBzOi8vZGVudHN1LWhvLmNvbS9hcnRpY2xlcy84NzE10gEA?oc=5
2024-02-18 21:04:07Z
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