世界で初めて小惑星の物質を持ち帰った探査機「はやぶさ」の活躍を知り、天文学者を志した若手研究者が6月、後継機「はやぶさ2」が向かう極めて小さな小惑星「1998KY26」の詳細観測に挑む。事前に天体の詳しい情報が分かれば探査にも役立ち、成果への期待が膨らむ。
“初代”に魅せられ
観測に取り組むのは、東京大大学院生の紅山仁(じん)さん(27)。現在、博士後期課程3年で、今年春から博士研究員としてフランスのコートダジュール天文台に赴任する。
小学1年のとき、兄と一緒にロケットを見たという絵を描くなど、小さい頃から宇宙に関心を持っていた。高校3年の夏、地元で開かれた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の阪本成一教授(当時)の講演会に参加した。テーマは、2010年に地球へ帰還した「はやぶさ」と、14年の冬に打ち上げられた「はやぶさ2」についてだった。
太陽系誕生の謎に挑む宇宙探査の魅力について生き生きと語る阪本教授の話に引き込まれ、「自分も天文学者を目指そう」と背中を押されたという。
大学院では、東京大木曽観測所(長野県木曽町)にある最先端の望遠鏡を使って、小惑星の観測研究に取り組んだ。
40以上の新天体発見
小惑星の研究が求められる理由に、太陽系の歴史をひもとくことがある。太陽系が生まれた頃の状態を残していると考えられる小さな天体を調べれば、太陽系がどのようにできたかを探ることができる。
さらに、「地球防衛」という視点もある。はやぶさ、はやぶさ2が訪れた小惑星は、地球と火星の間にあり、地球へ衝突する可能性がある。過去には、白亜紀に恐竜の絶滅を招いた小惑星の衝突もあった。実際に衝突するケースはまれだが、これらの小惑星の特徴を探査や観測を通じて理解することは、将来の「もしも」の際、衝突を防ぐ検討に生かせるかもしれない。
紅山さんは、観測のチャンスが少ない直径100メートル以下の小惑星を毎晩のように追い、それらの特徴を明らかにしてきた。これまでに地球へ近づく軌道にある小惑星を100以上観測し、そのうち40以上が新発見の天体だった。眠れない夜が続く研究にも、「毎日さまざまな発見があり、『今、自分だけが知っている』ということが多く、面白かった」と話す。
6月、チャンス到来
そんな紅山さんに、大きなチャンスが訪れた。今年、はやぶさ2が目指している小型小惑星「1998KY26」が、地球から観測しやすい明るさになるのだ。
はやぶさ2は、20年に小惑星「リュウグウ」の物質を持ち帰った後、新たな探査の旅に出発した。31年に到着する予定の「1998KY26」も地球へ近づく軌道にある。直径は約30メートルと極めて小さく、約10分の自転周期で高速回転している。1998年に発見されて以降、ほとんど観測されてこなかった。
「明るい」といっても微小な天体のため、米ハワイにある国立天文台のすばる望遠鏡クラスでなければ詳細な観測は難しい。紅山さんは、すばる望遠鏡を使う研究公募にこの小惑星の観測を提案し、採択された。天体の色などから「S型」「C型」などの小惑星の種類を特定し、表面の状態を明らかにする計画だ。
観測は今年6月5、6日の2日間。それぞれ約2時間ずつと、限られた時間内での観測になるため、現地の研究者と打ち合わせを重ねているという。
地上観測の結果と探査機が得たデータを比べることで、小惑星の研究は進展する。探査計画を立てる際の参考にもなる。紅山さんは「はやぶさ2の目的地を自分の目で見られることが楽しみでならない。良いデータを得られれば、プロジェクトの皆さんへ伝えたい」と声を弾ませる。
現在は国立天文台に所属している阪本さんにも報告した。「阪本さんの講演を聞いて以来、いつかはやぶさ、はやぶさ2に関わりたいと考えていた。ついにプロジェクトに貢献できる機会がやってきた。私の観測結果を、探査機の成果を高めることに使ってもらうなど、互いに成果を生かし合うようになればうれしい」【永山悦子】
はやぶさ2の旅
小惑星探査機「はやぶさ2」は2014年に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、地球と火星の間にある小惑星リュウグウ(直径約900メートル)を探査。20年にリュウグウの石や砂など計5・4グラムが入ったカプセルを地球へ持ち帰った。試料からはこれまでに水や有機物のほか、生命の材料となるアミノ酸や、遺伝物質の元となる核酸塩基などが見つかっている。
はやぶさ2はカプセル分離後、「1998KY26」へ向かっており、31年に到着予定。ただし、高速で自転する小惑星を探査する目的で作られておらず、その難しさを「ラグビー選手がフィギュアスケートで10年後のオリンピックを目指すようなもの」と例える声もある。
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2024-02-21 00:00:00Z
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