新型コロナウイルス感染拡大により、大会の中止・延期が相次ぐなど、スポーツ界は多くの問題に直面している。経験したことのない状況が続く中、アスリートはどのように過ごせばいいのか。1988年ソウル五輪シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)銅メダリストで、多くのトップ選手を指導するスポーツメンタルトレーニング上級指導士の田中ウルヴェ京さんに聞いた。
――東京五輪・パラリンピックの1年延期は選手の心理面にどのような影響を与えていますか。
「一概に、この状況がアスリートにとってマイナスだという表現はできません。ベテランや若手選手、受け止め方は人それぞれでしょう。競技特性によっても受け止め方は変わります。ただ、どの選手にも共通するのは『不確実性』。一応時期は決まっているけれど、来夏に大会が本当に開催されるのかが分からない。どこの施設がいつから使えるのかとか、日々の練習環境が整っていないこともストレスになっています。世界共通で、不確実性というストレスは選手にとって最もきついです」
――身体面にも影響が及んでいるのでしょうか。
「私が見ているのはオリパラを目指すトップアスリートが中心ですが、食事が1週間以上ほとんど喉を通らない選手がいれば、睡眠を取れていない選手もいます。円形脱毛症を訴えたり、コロナではないですが感染症にかかったりしているケースもあります」
施設が使えず、練習環境が整わないことはアスリートにとって大きなストレスだ(東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンター)=共同
――どのようなアドバイスをされていますか。
「新しい気づきになるための情報を提供しています。例えば、『モチベーションがない』と相談してきた選手に対しては、『あなたにとってのモチベーションはどういう意味か』と細かく聞きながら、選手にとっての現状を突き詰めていく。『モチベーションがなくても日々のトレーニングを続けている自分でもいい』と選手が自己管理していくこともある。モチベーションは必ずしも維持するものではないとも伝えます」
「人生にとって大事なことを悩める時間でもあります。これだけきつい時期だからこそ、きついと捉えて心を折れさせてしまうのも自分自身です。あえてプラスに捉えたほうがクリエーティブな発想が見つかることもある。『そもそも何のための競技か』という根本の話をする場合も多いです。何度も世界王者になったある著名選手は、『そもそもなんでこの競技をやっているのか、と考えると寝れなくなる。でも、今まで人のため、とメディアの前で言っていたのは自己陶酔にすぎなかった。この状況じゃないと得られない気づきだった』と話しました。激しい感情の起伏の中で、自分と向き合っている選手は多いです」
■最悪の事態も想定した準備を
「東京大会の中止などという最悪のシナリオが起きた場合のプランを作っておくようにも伝えています。最悪の事態が起きたときにも自分の想定内であるように準備するのは、選手にとってゲームプランをたてることと同じです。そうするとみんな目標が変わる。『2024年パリ五輪を目指します』と言った選手がいました。『来年に大会があろうとなかろうと、きょうやるべきことは限られているので、それを必ずやるのは当たり前』という表現をした選手もいました」
――弱音や不安をなかなか吐き出せない選手も多いと思います。サポート態勢はどうあるべきでしょうか。
「選手は、言葉のキャッチボールにおける相手の受け取り方をすごく観察しています。私に対してもそうです。悩みを言っていい相手なのか、その判断についてはとても敏感。弱い選手だと簡単に分類されたくないし、気を使われるのも居心地悪い。選手は公では本心で前向きな言葉を発しますが、その過程でどれだけ葛藤しているかは誰にも見えないですし、見せません」
「各競技の指導者からは、『(心理の)専門家は欲しいけど、現場の実態を理解してくれるのか』という声を聞きます。心技体の中でも『心』は最も科学的なアプローチが必要ですし、フィジカルトレーナーや栄養士などのチームスタッフとも協働していく必要があります。理想としては、競技環境を知る元選手、例えば五輪までいったような選手で、心理学や医学を勉強して大学院を修了後、資格を取ったような人を置けるといい。現場の感覚と理論を合致させて説明できる人がもっと増えればいいし、スポーツ心理学の奥深さを広めることが重要だとも考えます」
(聞き手は堀部遥)
たなか・ウルヴェ・みやこ 1967年、東京都生まれ。88年ソウル五輪で小谷実可子さんとデュエットを組み銅メダルを獲得。日本、米国、フランスのシンクロ代表コーチを計10年間歴任。91年に渡米し、米国大学院で修士号取得(専門はスポーツ心理)。日本スポーツ心理学会認定メンタルトレーニング上級指導士。現在はサッカー女子日本代表、車椅子バスケットボール男子日本代表など多くのスポーツ選手のメンタルトレーニングに関わる。国際オリンピック委員会(IOC)マーケティング委員。
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2020-05-23 18:00:00Z
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