「Netflixのゲーム版みたいな、クラウドゲーミングサービスを作ってみました!」というツイートが、Twitterで反響を呼んでいます。試作のデモ動画では「Fate/stay night」(動画で使われているのは全年齢PC版の[Realta Nua])や「AIR」など、往年のPCゲームがスマホのブラウザ上で稼働……これ、ものすごく画期的なのでは!?
この2作品は、初出が2000年代前半。対応OSが古く、現行OSには公式に対応していないことから、今後オリジナル版を動かせる環境はどんどん少なくなっていくことが予想されます。しかし、クラウドゲーミングなら運営のサーバー上で動かす形で実現可能。ユーザーは現行のPCやスマホで、ゲームの映像をストリーミングで受信する形で楽しめるわけです。クラウドゲームでよく懸念されるタイムラグの問題についても、アドベンチャーゲームならば影響は軽微でしょう。
サービスを考案したのは、DMMから独立してBlack Inc.を立ち上げた、エンジニアの小川楓太(@ogawa0071)さん。あくまでも検討中の段階ですが、月額1000円程度で遊び放題のサブスクリプションサービスを想定し、反響(リツイート)が多ければ事業化したいと表明しています。もし実現した場合、ユーザーはどのようにゲームを楽しめるのか、構想について詳細な話を聞きました。
ハイエンドのGoogle Stadiaに対する自由のクラウドゲーミング
―― まず、基本的な仕組みについて簡単に説明いただけますか
小川:ここ1年ほどで整備された、WebRTCという技術を用いています。サーバーとユーザーの端末をP2Pで直接つなぐことで、低レイテンシー(遅延)での映像送信を実現しています。
サーバー側は実行中のゲーム画面をキャプチャーし、WebRTCを通じてユーザーに送信、ユーザー側がボタンを押すと、その操作がサーバー側の仮想キーボードへ入力される仕組みです。
―― もし実現したら、ユーザーはどのようにゲームを遊べるのでしょう。
小川:NetflixのようなVODと同様に、ユーザー登録をしてリストから選ぶだけで、ゲームを3秒程度で起動できます。ちなみに閉じたゲームを再度開いた場合は、セーブなどをしていなくても、前回閉じた時点から始められます。
―― 必要な動作環境は?
小川:基本的には最新のWebブラウザがあれば動くので、PCでもスマホでも利用できます。要望が多ければ、各種セットトップボックスにも対応するかもしれません。
―― 画質やレスポンスはどの程度になりますか?
小川:表示解像度は720p〜1080p、フレームレートは30fps(秒間30コマ)になると思います。そもそも、配信を想定しているひと昔前のゲームの場合、最大で800×600だったりするので、それで十分と考えています。
レスポンスは通信環境にも左右されるので一概には言えませんが、0.5秒程度のラグが出るかと思います。最適化すればもう少し速くなるかもしれません。
―― この発想は、どこから始まったのでしょう。
小川:きっかけはGoogleのStadia(関連記事)の発表を見て、「GoogleはAAA級のハイエンドゲームにだけフォーカスするのか」と少し落胆したことでした。Stadiaの開発者向けブログなどを軽く読んだ限りでは、Stadiaへの対応はかなり大変そうです。知識やノウハウがないことを加味すると、スマホやコンシューマーゲーム機に対応するよりもはるかに大変だろうと予想していて、初期に参入できるのは恐らく最大手だけになると踏んでいます。
しかしゲームはハイエンドだけに限らず、さまざまなジャンルがあります。特にアドベンチャーゲームは動きが少ないので、クラウドゲーミング向きだとはもともと考えていました。そんなとき、現在放送中の「この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO」のテレビアニメ版(関連記事)を見ているうちに、クラウド上でWindows 95などの古いOSを動かせば、同作のようなオールドゲームを、プラットフォーム対応の修正をすることなくそのまま動かせるのではないかと思いついたのです。
古いOS環境は入手や維持が難しく、脆弱性があっても修正されないため家庭で使用するのは危険です。その点、1人のユーザーがゲームだけを起動し、サンドボックスとしてオールドOSを使用するならば危険性は低い(本当に危険性がないかは今後専門家と検討予定)と考えたわけです。
往年の名作を今のOSに対応させる、プラットフォーム対応の修正には当然コストがかかります。スマホ版が少ないのも同じ理由でしょう。だからこそ、クラウドゲーミング技術をゲームメーカーの負担軽減に使えば、これまでコストを割けなかった往年のゲームを、いつでもそのままの形で楽しめるのではないかと考えました。ストリーミングにすれば、ストアの審査に引っかからずにアダルトゲームを展開できる(可能性が高い)のも魅力だと思っています。
―― 配信タイトルはアドベンチャーやノベルゲームがメインとなるのでしょうか?
小川:当初はオールドゲーム全般を考えていましたが、あえてアドベンチャーゲームに特化する方がいいと思っています。例えばアクションゲームの場合、60fpsが理想。これをクラウドゲーミングで実現するにはGoogle級の大規模ネットワークが必要で、仮に大手のパブリッククラウドを使っても、そうそうまねできるものではありません。
しかし、アドベンチャーゲームならばレスポンスを追求する必要はありません。画質やフレームレートを制限し、可能な限りサーバーコストを抑える方針も成り立ちます。圧倒的な資本力と技術力で極限を突き詰め新しいゲーム体験を生み出そうとしているのがStadiaです。それに対し、必要十分なコストと技術でグローバル企業基準の表現規制に縛られない自由なゲームの場を目指しているという点で、差別化できていると思っています。
―― ここまでで開発にどれくらいかかっていますか。
小川:「送られてきたゲームの映像がスマホ上で動き、タップで操作するとサーバー側のキーボードが押される」という、最低限クラウドゲーミングサービスと言える部分までは、24時間ぶっ続けのコーディングで完成させました。
その後、Twitterで公開することに決めてから、他の仕事の合間に調整をかけました。その3日間で、UIをNetflix風に整え、複数のゲームをストリーミングできるよう仕上げています。必要な技術が自分の得意分野で、WebRTCについても数カ月前から注目していたこともあって、これだけ短時間で作れたのだと思います。
―― もし実現する場合、どのようなビジネスモデルを考えていますか。
小川:ゲームメーカーさんの意見を最大限尊重することを前提に、サブスクリプション型にしたいと思っています。以前学生を対象にコンテンツ消費の実態についてヒアリングしたことがあったのですが、その際多くの人が「YouTubeか、契約しているサブスクリプションサービスに作品がなければ視聴するのを諦める」と答えていました。そう遠くない未来、「サブスクリプションサービスで取り扱いのないコンテンツは、それ自体認識されない」という時代が来ると私は危機感を持っています。
価格については、NetflixやAmazon Prime Videoなどが安価に利用できる以上、月額1000円程度が上限と思っています。価格を抑えつつ、ゲームメーカーに買い切りゲームと同程度の利益を出していただくにはどうすればいいのか、そもそもどうやって多くのメーカーから賛同を得ればいいか、まだまだ課題は多くあります。
―― Twitterでの反響は大きいようですが、事業化は実現できそうですか?
小川:現時点では「本格的に検討を始めた」としかお答えできません。ただ、検討が進められたのも、多数のリツイートがあったおかげです。もう日本にアドベンチャーゲームのファンはごく小数しかいないのではないかと思っていたのですが、この短期間でこれだけの反応をいただけたのは、サービスを求めるユーザーがいることの証明となりました。今後事業化するにしても撤退するにしても、きちんとお知らせはしようと思います。
動画提供:小川楓太(@ogawa0071)さん
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2019-04-20 09:30:00Z
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