以前の連載で、2020年内に「Surface Neo」は登場しないという話題を紹介したが、2画面デバイスのSurface Neoとともに出荷されるWindows 10Xも、同様に2020年のタイミングでは登場しないことも同記事では触れている。
これについて、WindowsならびにSurfaceデバイスの開発責任担当者であるパネス・パネイ氏が公式Blogの中で、「Surface Neoの登場にはもう少し時間がかかり、Windows 10Xについても最初に搭載するデバイスは2画面ではなく“1画面”のものが先行することになる」と認めている。
だが最新の報道によれば、Windows 10Xのリリースはこの時点での予定よりもさらに遅れる見込みで、Surface Neoなど2画面デバイス対応については、2022年と再来年まで持ち越しになる見込みだという。Windows 10Xについては、さらに「Win32サポート」も外される可能性が示唆されており、当初想定していた「Windows 10を異なるカテゴリーのデバイスでも動作させるOS」ではなく、「特定の用途に特化したWindows 10のサブセット」に近い位置付けとなりそうだ。
Win32サポートの消えたWindows 10X
この話は、ZDNetでメアリー・ジョー・フォリー氏が「Microsoft plans for single-screen Windows 10X rollout in spring 2021; dual-screen in spring 2022」のタイトルで報じている。
同氏が自身の情報源からの話題として伝えているのは、当初の見込み通り2021年に登場するのはWindows 10Xを搭載した“1画面デバイス”であり、公式にはこれがWindows 10Xの正式リリースとなる。Surface NeoなどOEM製品を含む2画面デバイスの登場は2022年となり、当初予告から2年近く遅れることになる。
一方で、Surface Neoの片割れとなる「Surface Duo」については2020年夏時期での前倒し投入が見込まれており、Microsoftが提案する2画面デバイスを活用したアプリケーションやサービスの数々は当面、Androidを搭載したSurface Duo上で実現される見込みだ。
“1画面デバイス”を先行投入するMicrosoftの意図としては、ビジネスや教育用途などでも、レガシーアプリケーションのような特にフルのデスクトップ環境を必要としないユーザーを対象に、Windows 10Xをアピールしていく計画のようだ。
かつての「Windows 10 S」が想定される施策だが、いわゆるファーストラインワーカーなど特定のアプリのみを利用するケースであったり、教育用途で「ユーザー(生徒)に勝手に環境をいじらせない」といったりした限定利用で、効果を発揮すると考えているようだ。
このWindows 10Xについて、1つ重要な新情報がある。Windows Centralでザック・ボーデン氏が報じているが、少なくとも2021年時点でリリースされるWindows 10Xは「Win32」をサポートしないという。
かつて「Desktop Bridge(Project Centennial)」の名称で、レガシーアプリケーションのフロント部分はUWPにしつつも、Win32 API自体は継続サポートすることで互換性を維持していたMicrosoftであり、Windows 10の機能制限版であるWindows 10 Sにおいても当然ながらWin32 API自体の利用の制限は行ってこなかった。
これにより、Windows 10Xは「サブセット版」の性格がより強くなったといえる。その理由についてThe Vergeでトム・ウォーレン氏は「パフォーマンス上の問題を解決できなかった」という関係者の声を紹介している一方で、冒頭のレポートでジョー・フォリー氏は「まだMicrosoftはWindows 10XへのWin32導入を諦めていないとも聞いている」としており、2022年以降のターゲットについての情勢は未知数という状態にある。
「Windows 10Xの当初のターゲットを、クラウド利用を重視したものにする」とはパネイ氏も自身のBlog投稿で触れており、発表前に当初うわさされていた「Chromebook対抗」をより意識した製品となる。
用途をビジネスや教育向けとしているが、実際には「低価格ノートPC」としての販売形態がメインになると思われ、OSのライセンス料金を無料、またはそれに近い状態にしつつ、PCのハードウェア自体のスペックを思い切り引き下げることによって、現状の4〜5万円がボトムラインになっているノートPCの販売価格を、もう1段階引き下げることを期待しているとみられる。
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「クラウドOS」とは?
ここで問題となるのは、Microsoftのいう「クラウドOS」の定義だ。Windows 10Xがかつて「Santorini」や「Windows Lite」などと呼ばれていたころ、OSのコンセプトは「Microsoftがクラウド利用に特化したOSを開発している」などといわれていた。
Win32サポートの消えた現状においてさえ、Windows 10Xはスタンドアロンでの動作が可能なフルスペックOSであり、Web処理の一部をローカルに落とし込むChrome OSとは考え方が異なる。では、Microsoft自身の考える「クラウドOS」とは何だろうか。
鍵を握るキーワードは、Microsoft Azure上で動作する「Windows Virtual Desktop(WVD)」だ。Microsoft 365 E3/E5やWindows 10 Enterprise E3/E5を契約するユーザーなどを対象に提供されている「仮想デスクトップ」サービスで、Azure上に構築されたWVDにリモートアクセスして仮想デスクトップ環境を利用できる。
基本的なインフラや、ハードウェアにまつわる部分の制御は全てMicrosoftが行っており、ユーザーはデスクトップ環境やアプリケーションの利用に集中しつつ、管理者はグループポリシーなどを通じて配下にあるユーザーの仮想デスクトップ環境の面倒を見るだけでいい。
WVDのメリットの1つとして、2020年1月14日に延長サポートの終了したWindows 7であっても、“有償”で2023年1月までのセキュリティアップデートの受け取れる「ESU(Extended Security Updates)」が、WVDユーザーには“無償”で提供される(正確にいうと、サブスクリプション料金を支払っているので“無償”ではないのだが……)。
これは、Windows 7がセキュリティ対策なしでローカルに放置されるのを防ぐ措置であり、「Windows 10では動作しない(あるいは動作保証されない)アプリケーションを継続利用したい」というユーザーには、WVDを活用するようにという特別対応と考えていい。
話題が少々脱線したが、この仕組みをクラウドOSとして活用しようとMicrosoftは考えている。前述のメアリー・ジョー・フォリー氏によれば、「Cloud PC」の名称でWVDのインフラ上で動作する、より汎用(はんよう)向けの仮想デスクトップサービスの提供を計画しているという。
同氏の記事でも触れられているが、MicrosoftはCloud PCというチーム向けのプログラムマネージャを募集していたことが分かっており、最終的にWVDを「Desktop as a Service」のような形でサービス化していくことを狙っているようだ。より具体的には、Microsoft製品の再販業者でもあるPCメーカーやソリューションプロバイダーが、このCloud PCへの接続サービスをユーザーに「オプション」として提供できるものと考えられる。
ジョー・フォリー氏の考えでは「既存のローカルで動作するデスクトップ環境をすぐに置き換えるものではない」としているが、多くのユーザーがMicrosoft 365などのサービスサブスクリプションを通じてCloud PCのデスクトップ環境も触れるようになれば、いろいろ柔軟性が広がるだろう。
多くが知るように、Microsoft 365(Office 365)は既にMicrosoftやWindowsの環境に閉じた製品ではなく、さまざまなデバイスやユーザー環境を通じてアクセス可能なクラウド製品になっている。モバイル分野でいえば、AndroidやiOSのようなプラットフォームでも構わないため、ユーザーによっては「iPadでWindowsのフルデスクトップ環境を操作したい」という人もいるかもしれない。
さらに、その作業内容や途中経過を自宅にあるWindowsデスクトップPCに引き継ぐことも容易なため、作業の柔軟性は非常に高い。同様に、このデバイスに「Win32が動作しないWindows 10Xを搭載したクラムシェルノートPC」が参加することも可能だ。
この場合、安価に販売されるWindows 10X搭載ノートPCを“シンクライアント”的に利用することも可能なわけで、かつてSun Microsystems(現オラクル)がMicrosoft対抗のためにシンクライアント「SunRay」を引き下げて挑戦し、そのまま(パフォーマンスとアプリケーション互換性の問題で)消えていった歴史を考えれば、Microsoft自身が同じアイデアをもり立てていこうという流れになっているのは非常に感慨深い。
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2020-07-21 21:00:00Z
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